インフルエンザの流行について 院長
インフルエンザの感染者数が統計開始以来最大となっており、新型コロナウィルス流行時のような医療機関のひっ迫が起こっています。感染状況と流行の理由、医療機関の状況に関して報告します。
Ⅰ.現在の感染状況
報告数は全国、埼玉県ともに警報レベルとなっています。
定点医療機関当たりの報告数:1月17日付報告、国立感染症研究所
全国 :先週33.8→今週35.0(△1.20) :警報発表
埼玉県 :先週46.1→今週35.0(▼-11.1) :警報発表
2025年第2週(1月6日~1月12日) 埼玉県ホームページ
インフルエンザウィルスは98%がA型で、中でも2009年に新型インフルエンザと言われていたパンデミックタイプ『H1N1』がほとんどを占めています。
Ⅱ.何故、今年インフルエンザが流行しているのか?
国立感染症研究所からの報告によると、新型コロナ流行期にはインフルエンザが流行していませんでした。そのための免疫力低下が一因と考えられます。
過去のインフルエンザの流行期
【流行あり】
・2022年51週~2023年30週
・2019年46週~2020年11週
【流行なし】
・2021年9月~2022年8月
・2020年9月~2021年8月
Ⅲ.何故、肺炎が多いのか?
現在流行しているインフルエンザA型(H1N1)は、のどの奥の細胞を傷害するため肺炎を起こしやすい特徴があります。これまでもインフルエンザウイルスに感染すると細菌性肺炎を合併しやすくなることはわかっていましたが、そのメカニズムは明らかではありませんでした。今回、大阪大学の住友らより発症機序に関する報告がありましたのでご紹介します(資料1)。
要旨
ウイルス感染後に細菌に重複感染させたマウスモデルを利用しました。インフルエンザウイルスに感染した気道上皮細胞の表層ではGP96という分子シャペロン(蛋白質)が出現し、肺炎球菌などの細菌が肺に定着しやすくなることにより重症肺炎が発症することが解明されました(下図)。
GP96を創薬ターゲットにした新たな治療法の開発が期待されます。
STEP1:上気道への細菌定着
STEP2:下気道への細菌伝播と症状増悪
Ⅳ.医療機関の状況
救急搬送困難事案とは、救急隊による「医療機関への受入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」の事案を指します。各都道府県を代表する52の消防本部の搬送困難事案は、1月5日までの1週間で7773件に上り、4週間で約3倍に増えており、以前のコロナ流行期と同様の事態がすでに生じています。
当院にも毎日埼玉県内の各所より多くの救急要請が来ていますが、急性期一般病棟はすでに満床に近く、かつ感染者を収容できる病室には限りがあるため、十分な対応ができていないのが現状です。
おわりに
・インフルエンザの流行シーズンは、例年12月から3月であるため、しばらくの間感染状況が継続するものと考えられます。
・予防は従来通りのマスク、手洗い、うがい、室内換気が重要ですが、歯ブラシに加えて歯間ブラシなどで口腔(こうくう)ケアをしっかりすることも感染抑制につながります。
・医療機関がンフルエンザの急増に対処できていないのは、憂慮すべき事態です。当院でも患者さんの重症度に応じた最大限の対応ができるよう努めます。
資料
(題名和訳)GP96がインフルエンザ感染後の二次的細菌性肺炎を増悪させる
2025年1月19日
石川 進