医師の働き方 (院長)
昨年11月に松山・道後温泉で大学の同窓会があり、昔と今を比較した話を楽しみました。医師になってから、多くの先輩、後輩のお世話になってきましたが、年代によって仕事に対する意識や働き方が変わってきているのを感じています。おそらく、少年~青年期の時代背景が影響しているものと思っています。今回は私が感じてきた年代別の働き方の相違に関して記載します。医師だけでなく、一般の方々も似通った部分があるかもしれません。まったくの私見ですので誤りがあればご容赦下さい。
Ⅰ.医師の応召義務とは
医師法では、「診療に従事する医師は、診察治療の求があった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と定められています(19条)。しかし、私達はこの法律があることは知っていますが、日常的に意識している医師は殆どいないと思います。医師の仕事は患者さんを中心に回っており、必要な時にはみんな働くのです。その点では法律を守ることージャスティス(順法)を超えたフェアネス(公正さ、きれいさ)の世界だと思っています。
Ⅱ.先輩たちから学んだこと
私が指導して頂いた方々は、概ね昭和20年代生まれ(現在70歳代)の方が大半です。時代的には、戦後の混乱と復興が一段落した頃に青少年期を過ごした方々で、私の一世代前です。仕事に関しては、時間や労力をいとわず、朝から晩までとにかく良く働きます。いわゆる医師の鏡です。働くことが日常であり、そのことで自分や家族の幸せや世の中への貢献を果たしていたと時代だと思います。
Ⅲ.後輩たちから教わったこと
一緒に働いた後輩たちは、昭和40-50年代生まれ(現在40-50歳代)の方が多いです。彼らは、時間に関わらず働く私たちにお付き合いしてくれましたが、同時に時間の使い方を教えてくれました。ある後輩は夕方仕事が一段落するといったん家に帰り、家族との食事と子供のお風呂を済ませていました。その後、夜9時頃に再度病院に戻り、朝まで患者さんを見てくれました。医師の仕事と家庭の両立が可能なことを教えてもらい、目が覚める思いでした。
Ⅳ.私の働き方
私が医師になった頃、日本はバブル経済の最中でした。私は30-40歳代の頃は大学病院に勤務しており、週の半分くらいは病院、特にICUで術後管理にあたっていました。病院泊りが続くと、妻が長男を連れて病院の正面玄関まで来て、洗濯物と着替えを交換していました。わずかな時間ですが子供の顔を見ることができました。今では考えられない状況ですが、当時は何の疑問も感じていませんでした。50歳代になってからは、医師の働き方自体がすでに変化してきており、私も後輩も可能な場合には家に帰れるような体制が基本となりました。休日・夜間の緊急手術は相変わらずでしたが、心臓血管外科の仕事の一部と考えていました。
Ⅴ.医師の働き方改革
2024年4月より「医師の働き方改革」が始まります。
目的は、医師個人の負担軽減と健康維持、医療の質・安全の確保です。
内容的には、長時間労働の改善、労務管理の徹底、業務の分担があります。
病院勤務医師の時間外勤務の上限は原則年間960時間(月間平均80時間)で、医師以外の一般労働者の方と同程度です。地域医療の確保(医師派遣、救急診療、臨床研修、専門研修など)では年間1860時間(月間平均160時間)まで許可されます。
おわりに
・先輩たちから勤勉さを学び、後輩たちからは有効な時間の使い方を教えてもらいました。
・「生活の質の維持」は、医師を問わずすべての方々に重要で、そのための仕事上の工夫や効率化は必須です。かつてのような、気力で体力の限界に挑戦するような働き方は好ましくありません。
・「医師の働き方改革」には賛否両論があります。一方で、医師自体の仕事に対する意識が変化していることもあり、時代の要請なのかと感じています。
2024年2月10日
石川 進