災害医療体制に関して (院長)

2024年1月1日、能登半島地震が発生し大変な一年が始まっています。新年の冒頭は本来であれば明るい前向きな話題から始めたいところですが、今回はさいたま市の災害医療体制と当院の役割に関して記載します。

Ⅰ.さいたま市の災害医療体制

さいたま市の救急医療体制は以下のようになっています。組み立てとしては、地区ごとの医療救護所、救急病院、災害拠点病院と3段階になっています。

1)医療救護所の設置

震度6弱以上の地震、風水害等の災害時に応じ適宜設置されます。

・医療救護所は各区に1カ所(北区のみ2カ所)の計11カ所設置され、見沼区ではさいたま記念病院内に設置されます。

・医療救護所に収容された傷病者に対し、医師会により編成・派遣された医療救護班(医師及び看護師等)がトリアージ及び応急処置を実施します。

*トリアージとは:災害時に多数の傷病者が同時に発生した場合、重症度判定に基づいて治療の優先順位を決定することです。判定には世界共通の4段階分類(START法)があります。限られた要員や医薬品等の医療機能を最大限に活用するためです。

2)救急医療機関への患者搬送

医療救護所等で対応できない重症者等を収容し、治療及び入院等の救護を実施します。当院は救急告示医療機関(2次救急)なので、入院の受け入れ先となります。

3)災害拠点病院の役割

さいたま市内の災害拠点病院は以下の5カ所です。

自治医科大学附属さいたま医療センター、さいたま赤十字病院、さいたま市立病院、さいたま市民医療センター、埼玉県立小児医療センター

この中でうちさいたま赤十字病院が「基幹災害拠点病院」となっています。

災害拠点病院の役割としては、

①重篤救急患者の救命のための高度診療

②患者等の広域搬送(受入及び搬出)への対応、などです。

Ⅱ.災害時のさいたま記念病院の役割と準備に関して

当院の役割は医療救護所の設置および救急患者の受け入れです。

当院が被災を免れて病院機能が維持できた前提で話を進めます。

医療救護所の運営に関して

多くの患者さんの救急診療を行うには労力と人員を要しますが、医師会より医師、看護師等の応援を頂くことで、トリアージと応急処置は可能と考えられます。ただ、院内の薬剤や医療用備品・消耗品の量には限りがあるため、これらの確保が必須となります。

・入院患者の受け入れに関して

院内の空き病床には限りがあるため、近隣の病院と相談しつつ入院先を確保する必要があります。それが限界に達した場合には、当院にて空きスペースを見つけて対応することとなります。ニュースで見るような光景ですが、最低限の対応として簡易ベットの備蓄や借用は検討しておく必要があります。

・救急患者の搬送に関して

当院で対応不可能な重症もしくは緊急を要する患者さんは、災害拠点病院等への搬送を依頼します。問題は搬送手段で、陸路が使えない場合はヘリコプターとなります。離着陸のスペースは当院の駐車場、東宮下小学校もしくは七里総合公園を使う必要があると考えています。

・日常診療に関して

災害発生時、病院としては被災患者さんの診療にあたりつつ、通常診療の質を維持していく必要があります。被災者の方ではいわゆる災害関連死亡が問題となりますが、現在治療中の患者さんでも持病の悪化や合併疾患を発症する危険性が増加します。それらを防ぐには、近隣の先生方とともに患者さん個々の診療が途切れることが無いようにすることが必須と考えています。

おわりに

災害発生時には医療のみでなく生活面の維持など多方面の支援が必要となり、現在2次避難が進められています。救援や支援に参加されている多くの方々には心より感謝致します。災害時の病院の役割には災害の大きさや傷病者の数により大きな差が出ますが、準備しておくべきことは多岐にわたります。行政や近隣医療機関との連携により地域全体で患者さんを守っていく必要があると考えています。

 

2024年1月19日

石川 進