猛暑による体の変化と対策(院長)
真夏日は日常的で、最近は猛暑日(気温35℃以上)も頻繁です。欧州南部では熱波が襲い、インドでは気温53℃との報告もあります。このような気温上昇が続くと、人間の体はどうなってしまうのでしょうか?今回、気温上昇による体の変化を中心に記載します。
1)気温上昇による体の変化
室温を21℃から40.3℃まで上げて体の変化をみた英サウスウェールズ大学ベイリー教授らの報告があります。本実験では室の湿度は一定(50%)で維持しました。結果は図の通りで、深部体温(中心温)は37.5℃に上がり、脳血流の減少や呼吸・循環への影響も見られました(資料1)。
*深部体温とは、脳や臓器など体の内部の温度で、外環境の影響を受けにくく、内臓の働きを守るため通常は一定に保たれています。
2)湿度の影響
温度だけでなく湿度も身体に大きな影響を与えます。湿度が高いと空気中にはすでに大量の水分があるため、汗は蒸発しにくくなります。そのため、発汗しても体の温度は下がらず、深部体温が上昇してきます。
深部体温が高くなると、心筋や脳などの組織がダメージを受け、41~42℃位にまで上がると致命的となります。深部体温は気温と湿度の組み合わせによって上昇します。米ペンシルヴェニア州立大学の研究チームは、健康な若い成人を集めた実験で、深部体温が上がる温度・湿度条件に関して検討しています(資料2)。
結果:湿度が60%だと気温38℃で危険領域に入りますが、湿度が30%ならば気温40℃でも安全域に残れます。
3)熱中症の症状と重症度
日本救急医学会の熱中症ガイドライン(2015)が基準となっていますが、7月に2024年版ガイドラインが発表されました(資料3)。
当院(2次救急)を受診される方は、重症度Ⅰ~Ⅱ度の方が大半です。Ⅰ度の場合は外来での点滴(500-1000ml)で帰宅される方が多数です。Ⅱ度の場合は食事がとれず、血液検査で脱水や臓器(腎臓、肝臓、筋肉)障害がみられることが多いので、数日間の入院が妥当です。重症度Ⅲ度の場合は致命率が高く集中治療が必要なため、3次救急医療施設への搬送が必要です。
4)猛暑への対策
・クーラーで部屋の温度をさげるのはもちろんですが、湿度を下げることも大切です。冷房の寒さが苦手な方はドライモードを積極的に用いて下さい。
・屋外では〝なるべく日焼けを避ける服装〟が大切です。軽い炎症を伴う日焼けになると発汗による体温調節機能が低下してしまいます。また、通常のボディオイルは皮膚に油膜を張り水分の蒸発を防ぐ効果があるため、発汗の障害になります。
・発汗をうながすには十分な水分摂取が必須です。病院ブログ「夏の水分補給.2023年6月23日付」をご参照下さい。
資料1: James Gallagher (Inside Health, BBC Radio). 30 July 2023
Heatwave: How hot is too hot for the human body?
(和訳)熱波:人体にとって「暑すぎる」とはどれくらいの暑さなのか?
資料2:Steven C. Sherwood and Emma E. Ramsay
Closer limits to human tolerance of global heat.
(和訳)地球温暖化における人体の許容範囲の限界
Proc Natl Acad Sci U S A. 2023 Oct 24; 120(43)
資料3:熱中症ガイドライン2024. 日本救急医学会
https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
2024年8月16日
石川 進