睡眠の質と量 (院長)

 

日本人の睡眠時間は世界の中でも最も短いと報告されています。いったいどのくらい寝れば大丈夫なのでしょうか?一方で、睡眠の質を向上される様々な飲料や健康食品があり、ある飲料は2022年の年間ナンバーワン商品となりました。いったい睡眠の質とはどういうことなのでしょうか?

 

Ⅰ.睡眠の量:必要な睡眠時間

世界33か国の調査で、平均睡眠時間が最も長いのは南アフリカで9時間13分です。日本は最も短く7時間22分です。昔から“8時間睡眠” という言葉がありますが、8時間に満たないのは日本と韓国(7時間51分)のみです(資料1)。

しかし、カリフォルニア大学から発表された『睡眠時間と死亡率』の研究論文では、「6時間半~7時間半」の睡眠時間の人が10年後の死亡率がもっとも低いと報告されています(資料2)。一般的には、65歳以上の睡眠時間としては7-8時間が推奨されています。

Ⅱ.睡眠の質とは?

患者さんから“最近よく寝られない”と話をよく伺います。加齢によって睡眠に2つの変化があらわれます(資料3)。                第1の変化は、体内時計の変化により、早寝早起きになるということです。睡眠を誘うのは「メラトニン」というホルモンで、睡眠ホルモンと呼ばれています。メラトニンの分泌量が年を取るにつれて減少してしまうので、眠りにつきにくくなるのです。                          第2の変化は、睡眠が浅くなることです。睡眠には① レム睡眠(脳は起きているが、体は休んでいる状態)② ノンレム睡眠(脳も体も休んでいる状態)の2種類があります。この2種類の睡眠が90分の周期で繰り返されるのが、通常の睡眠のリズムです。しかし、このノンレム睡眠の時間が、中高年になると短くなり、レム睡眠の時間は相対的に長くなります。レム睡眠では脳が起きているので、ちょっとした物音でも目が覚めてしまうことも増えます。          

Ⅲ.睡眠薬は必要か?

“寝られないので眠剤を下さい” との相談をよく受けます。まずは、就寝時間と起床時間を確認し、睡眠不足かどうかを確認します。例えば“夜8時に寝ますが、午前3時に目覚めてしまい朝まで寝られません”という方には薬は不要です。しかし、心配事や悩み事があって寝付けない方には、何らかの処方(抗不安薬や睡眠導入剤など)を考慮しています。

睡眠薬は、睡眠導入剤や眠剤などと呼ばれていますが、医療機関から処方されている薬剤は2種類に大別されます。

①脳の機能を低下させる睡眠薬:現在使われている睡眠薬の中心です。

 薬剤によって、効果までの時間、効果の強さ、持続時間に差があります。

②自然な眠気を強くする睡眠薬:近年開発された薬です。

・メラトニン受容体作動薬:睡眠ホルモン「メラトニン」の効果を強くします。

・オレキシン受容体拮抗薬:覚醒ホルモン「オレキシン」を遮断します。

いずれの薬剤も、患者さんの状態をよく聞いて適切な薬を医師が選択します。長期の連用は望ましくないので、短期間の投与を基本としています。

 

医師の処方箋なしで買える市販薬では『睡眠薬』という分類で販売されている医薬品はなく、『睡眠改善薬』や『鎮静剤』として眠れなくて困っている方向けの商品が販売されています。薬剤師の方に相談するのが肝要です。

 

おわりに

ロサンジェルス・エンゼルスの大谷翔平選手は最低8時間、休日には12時間眠ることもあるそうです。日々の肉体的な負担が非常に大きいことが想像されます。彼は、睡眠時間から逆算してスケジュールを組んでいるようです。

1989年のテレビCMで「24時間戦えますか?」という歌がありました(三共・リゲイン)。バブル全盛期の日本のビジネスマンには『短い睡眠時間を良し』とする風潮があったようですが、仕事の効率と持続性を考えると望ましいことではありません。「働き方改革」が全盛の現在では、もちろん許容されません。

私は1年ほど前よりヤクルト1000を毎晩飲んでいます。効果としては、①睡眠の質向上:深い眠りが増える ②ストレスの緩和:ストレス時に分泌されるホルモン「コルチゾール」の上昇を抑える ③腸内環境を整える:乳酸菌シロタ株の役割。とのことです。自分としては、朝の目覚めが良いことが一番です。それと、時々夢をみますがそれだけ眠りが深いのだと想像しています。                          

十分な睡眠が取れれば心身ともに健康的になれます。ぜひ、ご自分の心地よい睡眠時間を探ってみてください!

資料1:OECD Gender Data Portal 2021

資料2: Kripke DF, Langer RD, Elliott JA, et al. Mortality Related to Actigraphic Long and Short Sleep. Sleep Med. 2011 Jan; 12: 28–33.

資料3:「高齢者の睡眠」厚生労働省e-ヘルスネット

2023年10月31日

石川 進