血圧130を超えたら (院長)
人生100年時代を見据え、自分自身で毎日の健康管理を行うことが求められるようになってきています。〝血圧130を超えたら〟というフレーズは、あるお茶(特定保健用食品)のCMで有名となりました。このお茶が売れているのかどうか、私は存じませんが、一般の方に血圧に対する意識を喚起させた点に関しては価値あるCMです。
高血圧は日常診療でも最も多く接する疾患で、患者さんからも多くの質問を頂きます。今回は、高血圧に関する患者さんからの質問に答える形で進めます。
Q1)血圧の目標はどのくらいですか?
血圧の目標値に関しては、日本高血圧学会からの高血圧治療ガイドライン(2019年版)を標準に診療を行っています。降圧目標は年齢によって大別されており、75歳未満の診察室血圧は収縮期130未満、拡張期80未満(<130/80と記載します)で、75歳以上では収縮期140未満、拡張期90未満(<140/90)です。したがって、75歳以上の方は〝血圧130を超えても〟慌てることはありません。私は、80歳以上の方では収縮期血圧140前後で可(ただし150以上は不可)としています。高血圧の95%が本態性高血圧(原因疾患なし)で、多くは動脈硬化に関連するものですから、年齢に伴って徐々に血圧が上がるのは自然だと思います。なお、ガイドラインでは、脳血管疾患、慢性腎障害、冠動脈疾患、糖尿病、抗血栓薬内服中の方では、降圧目標が若干違いますが、ここでは省略しますー医師にお任せ下さい。
Q2)朝の血圧が高いのですが、大丈夫でしょうか?
自分の健康管理に気を使っている方から、よく頂く質問です。一般に、起床直後には血圧がポンと高くなる瞬間があります。また、高血圧患者さんで最も血圧が高くなるのは起床後の1時間と報告されています。したがって、血圧を測るタイミングとしては、朝起きてトイレに行き、一息ついてから朝食前に計るのが最適です。また、血圧測定では1回目よりも2回目のほうが血圧は低くなるのが普通ですので、2回目の値を記録して下さい。一日の血圧測定は、基本的には朝食前と就寝前の2回計れば十分です。
なお、家庭での血圧は、診察室(病院)血圧よりも5mmHg程度低いのが普通です。
Q3)普段の血圧は高くないのですが?
健康診断などで高血圧を指摘された方からよく頂く質問で、多くは病院通院歴のない方です。実際に話を伺うと、〝普段は〟=〝高くない時〟の方が多いように感じています。〝高いと170のこともありますが、下がれば130になります〟との説明です。このような場合、血圧上昇による危険性を説明して、少量の降圧薬を開始してもらいます。また、高血圧や動脈硬化に関連した状態、特に肥満、高脂血症などがないかどうかも確認しています。
Q4)今は何ともないのですが、血圧の薬は必要ですか?
多くはご自分の健康に自信のある方からの質問です。高血圧は全身の動脈硬化を促進します。動脈硬化が脳の血管で起こると脳出血や脳梗塞、認知症になり、心臓の血管で起こると狭心症や心不全、心筋梗塞などになります。眼(網膜)や腎臓で動脈硬化が起こると、失明や視力低下、腎機能障害などを引き起こす場合があります。私が長く従事してきた心臓血管外科では、大動脈瘤や急性大動脈解離がありますが、どちらも死につながる危険な病気です。したがって、血圧が高い方は症状がなくても治療が必要です。 平均寿命が延びたのは望ましいことですが、なるべく元気で長生きすることが大切です。一病息災という言葉があります。高血圧は最も一般的な疾患ですが、健康管理のスタート地点として重要だと感じています。
2023年5月7日 石川 進