昨夜はテレビドラマ「サイン」の最終回でした。
某病院との懇親会があったために帰宅が遅れ、最後の20分から生放送を見ました。柚木貴志先生が死んだことはすぐ判りました。
録画予約をしておきましたので、放送終了後に録画で最初から見ました。
さて、この韓国作家原作のドラマのメッセージは何だったのでしょうか。
法医学の重要性がテーマになっていることは間違いありません。
「我が国の司法解剖率の低さを何とかしたい。」
悪役であり、最後は良心を示した日本法医学研究院伊達院長の本心はこの思いだったようです。同じ問題提起は、先日の朝日新聞の記事にもありました(下図参照)。
埼玉県には監察医制度がありません。「サイン」第2話は、埼玉県では殺人事件が自殺と判断されることを前提にした内容でした。埼玉がずいぶんバカにされているのですが、これに反応した埼玉の医療関係者、行政、警察関係者はどれほどいたでしょうか。
「サイン」はまた、政治家に媚びる「忖度」を皮肉ったドラマとも言えます。森友・加計問題に掛けたとも読み取れます。ドラマでは何人も殺害されましたが、現実は官僚の自殺者が1名出た「だけ」でした。「だけ」などともちろん言ってはいけません。犠牲者が出ても、ぬくぬくと生きる一部の権力者への皮肉に映りました。
いろいろな見方はあるでしょう。しかし、ドラマ「サイン」は法医学の重要性を取り扱ったと素直に考えるのがよさそうです。
法医学は英語でforensic medicine。この言葉を知る医学生、医師、医療関係者はどれほどいるでしょうか。ドラマの法医学研究院 IFM は、Institute of Forensic Medicineです。Fはforensic。「法律の」というラテン語に由来する形容詞です。
私はなぜ法医学に関心があるか分かるでしょうか。
それは、この医学分野の重要性を日本の医学教育の主導者が気づいていないからです。医学生もその重要性を知らないからです。
今の医学教育は一部の臨床に偏重しています。医学部卒業後の初期臨床研修にしても、新専門医制度にしても、法医学という名前はどこにもありません。同様のことは、公衆衛生学(産業医学を含む)にも言えます。法医学も公衆衛生学も立派な臨床医学であるのに、医学部卒業生に選択の余地がほとんどないのです。
「サイン」の最終話に法医学を目指す若い男女5人の姿が登場します。47都道府県全てに死因究明の監察医制度を普及させるには、年間5名の法医学志望者だけでは到底足りません。前掲の新聞記事が訴える意味をよく考える必要があります。
法医学は死因究明の学問ですから、単なる基礎医学とは異なります。かつての病理学がその後に臨床医学だと認識されたように、法医学も公衆衛生学も臨床医学としての地位を築いて欲しい。「サイン」を見ての私の感想です。