先週土曜日の午後、「超高齢社会高齢者のトータルケア」講演会に参加しました。
講演は3題、1)高齢者の骨粗鬆症・ロコモ対策、2)脳卒中・認知症について、3)高齢者における循環器疾患のトータルケア、でした。いずれも実地診療に即した内容でした。特に印象に残った最初の講演を紹介します。
演者は信州大学整形外科講師の中村幸男先生。自治医大1997年卒業とのこと。計算すると私が自治医大赴任したのが1991年ですから、中村先生が大学1年の時だったはずです。
ということは、どこかで教え、どこかで顔を合わせていたはずです。そう思って静かに講演を聞きました。
まず、大腿骨近位部骨折の話から始まりました。大腿骨近位部骨折は、大腿骨頸部骨折と転子部骨折から成ります。
私は現在、回復期病棟の患者さんのうち、主に整形外科疾患を担当しています。担当患者さんの7割が大腿骨近位部骨折術後のリハビリのかたです。身近に感じるテーマです。講演の要点を挙げます。
・大腿骨近位部骨折は、世界的には減少しているが日本では増加している。
日本での増加は高齢化にもよるが、骨密度の検診率の少なさが最大の要因である。
例えばスペインでは検診受診率70%、日本は5-10%にすぎない。受診率30%を目指したい。
・骨粗鬆症は80%遺伝する。母親が骨粗鬆症なら娘はまず骨粗鬆症になる。
・骨折すると、たとえその骨折の治療がうまくいっても死亡率は9倍上昇する。
・腹部大動脈の石灰化が2椎体以上あれば骨粗鬆症がまず存在する。すなわち、動脈硬化と骨粗鬆症とは密接に関係する。
・糖尿病のマーカーであるHbA1cが7.5%以上になると、骨折のリスクは急増する。
・椎体骨折や大腿骨近位部骨折をした場合は、必ず骨強化の薬を使わなければならない。
・肘や膝の骨折は骨粗鬆症とは関係ない。
・骨折は西日本に多く、東日本では少ない。その理由は、納豆の消費量に関係する。
納豆はビタミンKが豊富である。ビタミンKは骨のしなやかさを作る大切な要素である。
納豆の中では挽き割り納豆がおすすめである。
・ビタミン Dも大切である。若い女性の99.3%はビタミンD不足である。
日焼け止めの使いすぎ、日光に当たらないのがいけない。ビタミンD摂取のおすすめは干しシイタケ、鮭である。
ビタミンDがないとカルシウムをいくら摂っても吸収されない。
・その他に骨折予防で大切なのは、マグネシウム。蕎麦、ひじき、すりゴマにマグネシウムが多い。
こむら返りをよく起こす人は、マグネシウムが極端に少ない。
・鉄分が足りなくても骨折を起こす。パセリを食べるのをおすすめする。
パセリを冷凍にしておいてこまめに食べるのがよい。
・亜鉛も骨折予防に大切である。牛肉が亜鉛の補充によい。高齢女性は特に亜鉛不足になっている。
・体操で腰椎の骨密度を増やすことができる。2つの体操をおすすめする。
1つは「おへそ引っ込み体操」。立って呼吸しながらおへそを引っ込めることを繰り返し30秒おこなう。
1日5回すれば腰椎の骨密度は上がってきて圧迫骨折の予防になる。
もう1つは「かかと落とし体操」。膝を軽く曲げて立ち、かかとを少し上げてストンと落とす。
すると股関節に響いて大腿骨近位部の骨密度の強化に繋がる。かかとは上げすぎないのが大切。
こうした体操では息を止めてはいけない。息を止めると血圧が上がる。
このあと、歯と骨折との関係、小中学校での給食栄養の見直し、口腔ケアの大切さ、薬の使い方、と続きましたが、長くなりますのでここで止めます。
骨折という整形外科の専門分野のことなのに、からだ全体のこと、内科的なこと、歯科のこと、食事のこと、学校教育のことにまで広がる発想の柔軟性に感嘆しました。総合診療を学んだからこその発想のように思いました。
自分が教えたという記憶も意識も全くありませんが、嬉しくなったのは事実です。