昨日の日曜日、第76回日本リハビリテーション医学会関東地方会学術集会がオンラインで開かれました。一般演題では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の発表がいくつかありました。個人的にはCOVID-19急性期のリハビリの在り方に興味を持っていますが、今回急性期に絞った発表はありませんでした。
午後の教育講演でぜひ視聴したいと思っていたのが「がんのリハビリテーション診療最前線 最新のエビデンスとプラクティス」でした。演者は慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室の辻 哲也教授。この分野の第一人者だけあって、がん医療におけるリハビリテーションの役割をわかりやすく解説されていました。
まず、がん患者の悩みや負担、症状、治療の副作用の中にリハビリの関われる領域が数多くあることを示されました。がんの診断に始まる予防的リハビリ、治療開始と共に行われる回復的リハビリ、再発/転移に対する維持的リハビリ、末期における緩和的リハビリなど、がんの全ての段階においてリハビリは関与できるし関与しなければならないと主張されました。
印象的だったのは、周術期の筋肉量減少(サルコペニア)が食道がん術後の長期生存率にかかわることが示されたことです。術後の骨格筋量低下の少ない群では低下の多い群に比し3年生存率が有意に高かったとのことです。これはリンパ節転移など既知の予後因子とは独立していました。現在、術前リハビリテーションによる骨格筋量低下予防を目指す前向き研究が計画されているとのことです。
がんのリハビリテーションの問題点の1つは、保険診療が入院患者に限られることです。したがって外来での術前リハビリテーションには診療報酬が付かないことになります。厚労省に働きかけてがんリハビリテーションが病院の負担なく外来でもできるように訴えていくとのことでした。
もう1つ興味を引いたのは、がん悪液質に対するリハビリテーションです。がん悪液質は、がんの進行・再発・浸潤によって生じ、体重減少や倦怠感、食欲不振、筋肉量減少(サルコペニア)、活動性低下などをもたらします。がん悪液質に対しては運動(リハビリテーション)・薬物・栄養・心理療法などの集学的介入が早期に必要とされます。現在、肺がんと膵がんの悪液質を対象に、栄養介入・下肢筋トレ介入・生活様式介入をそれぞれ栄養士・理学療法士・看護師が実施する前向き研究が行われているとのことです。最近アナモレリンという薬剤(グレリン様作用薬)が一部のがんの悪液質に対し保険収載されました。薬物介入を含めた総合的な悪疫質治療が本格的に始まろうとしています。個人的に残念なのはアナモレリンが非小細胞肺がん、胃がん、膵がん、大腸がんの4つのがんにしか適応がないことです。がん悪液質は全てのがんに起こり得る病態ですので、適応拡大を願わずにはいられません。
いずれにしても、がん医療にリハビリテーションが積極的に関わる必要性がよくわかりました。今後の課題は、がん医療一般に言われているように、全国どこにいても、だれでも受けられる「均てん化」だと思われます。
リハビリテーション専門医が極めて少ない我が国では(2019/6/14ブログ参照)「がんリハ」の均てん化にはなお時間がかかりそうです。