厚生労働省は毎年10月「がん検診受診率50%達成に向けた集中キャンペーン」を展開しています(図1)。日本対がん協会(図2)や各都道府県(図3)でもがん検診受診を促す運動を繰り広げています。
昨年は、新型コロナウイルス感染症の影響でがん検診受診者は大幅に減少しました。日本対がん協会によると、昨年(2020年)のがん検診受診者は一昨年(2019年)に比べ30%減少したとのことです。それによって全国では約2100のがんが未発見になった可能性があるとしています*。
*https://www.jcancer.jp/news/11952
5年生存率を、がん検診で発見されたがんと症状等で発見されたがんとで比べてみると(茨城県の2012年診断症例でのデータ)、検診が適応される5つのがんでは、検診発見群のほうがいずれも高くなっています(図4)。
がん検診の目的は「がんの早期発見によってがん死亡率を下げる」ことです。ただし、厚生労働省はがん死亡率を下げる方策として、がん検診だけを強調しているわけではありません。がん検診の前に、「がん予防重点健康教育」を挙げています。がんの予防として、生活習慣の改善(とくに禁煙)、乳房を意識する生活習慣の定着(ブレスト・アウェアネス)、がんと感染症との関係についての知識の普及(ピロリ菌と胃がん、ヒトパピローマウイルスと子宮頸がん)などの重要性を指摘しています。
がん検診も良いことばかりではありません。今年10/1に一部改正された「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」(図5はその一部。上記のブレスト・アウェアネスもこの改正で初出)では、がん検診の利益と不利益について初めて言及しました。最大の利益は「がんの早期発見・早期治療によるがん死亡率減少効果」です。一方、不利益としては、偽陰性(がんがあるにもかかわらず、がんの疑いがあると判定されないこと)、偽陽性(がんがないにもかかわらず、がんがあるかもしれないと診断されること)、過剰診断(生命予後に関係のないがんが発見されること)、偶発症(検診や精密検査で合併症が発生すること)などがあります。
したがって、がん検診にあたってはこうした利益・不利益の説明が不可欠です。その上で対象者自身ががん検診を検討することが望ましいとされます。利益が不利益を遥かに凌駕するのですが、がん検診は必ずしも万全ではないことも知っておく必要があります。検診とともに「がん予防重点健康教育」が重要だとも言えます。
図1
図2
図3
図4
図5