消化器病関連5学会合同の日本消化器病関連学会週間(JDDW) 2021が11/4(木)〜11/7(日)神戸で開かれました。
参加は現地とウェブの両方が可能でしたが私はウェブを選びました。現地からの報告ではコロナ明けもあってかなりの数の参加者だったようです。
木曜日〜土曜日は病院業務をこなしながら4つのセッションを視聴しました。日曜日はオンデマンド形式の教育講演8題のうち1題を聴講しました。残りは時間を見つけて勉強する予定です。
今回の参加時間は少なかったものの消化器病診療の新しい流れを感じることができました。特に印象に残ったのが自治医科大学消化器内科 矢野智則(やの とものり)先生のランチョンセミナー「Gel Immersion Endoscopyを用いた内視鏡的止血術」です。
矢野先生の仕事ぶりは私が自治医大外科にいたときから知っていました。同大学消化器内科の山本博徳先生(現 教授)が世界に先駆けて開発したダブルバルーン内視鏡を山本先生と一緒に次々臨床応用していくさまを目撃しました。
「Gel Immersion Endoscopy (GIE)」は、内視鏡の先に透明ジェル(gel)を溜め、その中に潜るようにして(immersion)観察や処置を行う内視鏡手技 (endoscopy) です。通常の内視鏡は、空気で消化管内腔を膨らませ視野を確保します。ときに水を溜めて潜るようにして観察することもあります。しかし、狭い大腸や小腸からの出血では、空気を送っても水で洗い流しても「血の海」の中での観察、ましてや止血処置は容易ではありません。透明ジェルを使うと、血と混じることはないため出血点を容易に確認することができるというわけです。
ジェルを使った内視鏡の話は1年ほど前から聞いていました。実際の動画を見るのは初めてでした。ジェルとして最初は市販の経口補水液OS-1(オーエスワン®️)ゼリーを使ったとのことです。矢野先生たちの素晴らしいのは、OS-1ゼリーでは電解質(=塩分)が入っているため電気メスが使えない(∵体の他の部分に通電してしまう)という問題を解決したことです。OS-1ゼリーのメーカーである大塚製薬工場との共同研究で、OS-1ゼリーから電解質を抜き製品化しました(ビスコクリア®︎)。これによって電気メスを使った処置(止血、ポリープ摘出)が可能となりました。
今回のセミナーでは、消化管出血を止める動画が多数提示されました。例えば、大腸憩室出血の内視鏡的止血は今までならお手上げでした。この透明ジェル法を使うと「血の海」であっても、多数ある憩室の1つ1つの穴を覗き込んで出血の有無を確かめることができます。出血している憩室を見つけると、クリップでピンポイントに止血していました。透明ジェルを上手く使って内視鏡を挿入していけば、空気で消化管を膨らますことがほとんどありません。患者の苦痛が少なく、内視鏡の操作性も良いとのことです。この手技を応用して、子どもの大腸に刺さった爪楊枝のわずかな頭を内視鏡で見つけ、それを抜き取る動画も見せてくれました。感嘆するほかありません。
矢野先生は透明ジェル法を2015年アメリカの学会で発表し賞を授与されました。今のところ日本が主ですが全国各地で行われるようになってきたとのことです。医師にとっても患者にとっても福音です。
アイデアと工夫。それは臨床の醍醐味の1つです。