アライブ。このドラマのことはJR大宮駅の巨大な垂れ幕で知りました(図参照)。
自宅に帰って調べてみると監修者の1人に日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科の勝俣範之教授が挙がっていました。直接の面識はありませんが、その言動から信頼に足る医師であることは疑う余地がありません。期待が持てました。遺族の気持ちに寄り添うグリーフケアも話題になっていました。従来の内科学にはない広い領域を扱うのが腫瘍内科学(臨床腫瘍学)だと言えます。
腫瘍学を英語でOncology(オンコロジー)と言います。腫瘍内科医の恩田 心(こころ)先生の愛称が「オンコロ先生」なのもこれに由来します。
外傷性下大静脈損傷の緊急手術がドラマ前半のテーマの1つでした。
自分が外科医だから分かりますが、下大静脈損傷による大出血をともかく止めて術死させなかったのは大成功と言えます。その結果として下大静脈狭窄が生じパッキングがうまく行かず、大量出血・心停止に至ったというのが果たして「医療ミス」なのか。私は違うと思います。事実を伝えなかったことが問われたのかもしれません。
ドラマの中盤、妊娠中のがん患者がテーマとなりました。母体を優先するか、胎児を生かすか。私にも経験があります。私の場合、がんが分かった段階でがんの治療をせず子どもを優先しました。患者である女性の希望がそうだったからです。子宮内発育の時期をじっと待ち、児の生存の可能性が確実になったとき帝王切開で誕生させ、直後から母体に抗がん剤の投与を始めました。が、力及ばず、母親は亡くなりました。残された赤ちゃんは元気に育ちました。そのあとも、実は、この赤ちゃんをめぐる感動的な話があります。詳しくは述べられませんが、「命」のリレーが続いていきました。
ドラマの終盤、膵臓がんの手術が話題になりました。進行膵臓がんに対する術前化学療法の意義と手術根治性の問題を扱っています。同時に、女性外科医の乳がん再発という厳しい現実が突きつけられました。治療を受けながら仕事を続ける姿には考えさせられます。患者が医師だから、外科医だからというのではありません。誰にでも共通する問題だからです。
アライブは先週、最終回を迎えました。腫瘍内科を世に示した点で高く評価されるドラマだと思います。
その評価を踏まえ、腫瘍内科のことを世に問いたいと思います。以前も述べましたが、日本の大学医学部の講座の中に腫瘍内科学あるいは臨床腫瘍学が単独で存在するのはそれほど多くありません。多くの医科大学は講座ではなく大学付属病院のひとつの診療部門となっているか、講座と名がついても血液・腫瘍内科、消化器(あるいは呼吸器)・腫瘍内科など講座の一部に過ぎないことが少なくありません。
一般の人は、診療部門も講座も同じだと思うかもしれません。しかし、スタッフ・教育・研究を考えるとかなりの差があります。診療部門は基本的には診療だけです。目の前の患者さんの対応に追われることが多く(もちろん、これも大切な業務です)、教育や研究の時間・資金・人、いずれも不足しています。当該診療科の専門医師を目指す若手を育成しようとしても、旧来の内科にどうしても遅れをとってしまいます。一方、単独の講座であれば、ポストもスタッフも研究助手も研究室も研究費も与えられ、将来を見据えた教育にじっくり携わることができます。若い医師だけでなく医学生に早いうちから当該領域の重要性・魅力を伝えることができるのです。
この話は、腫瘍内科ばかりでなく、リハビリテーション医学や感染症学など、時代とともに新しく出て来た臨床医学領域に共通します(2019.6.14、2020.3.13のブログ参照)。
日々進歩するのは医学だけではありません。新たな問題に対しては新たな組織を立ち上げて対応するのは、企業も自治体も当たり前です。大学医学部でなかなか進まないのはもどかしい限りです。