オミクロンのその後

新型コロナウイルス感染症の新規発生について2022/2/8のブログで「ピークアウトか」と書きました。しかし実際のピークはそれよりも2週間ほど後にあったように思えます(図1)。ピークを越えたとは言え、依然として新規発生は多いのが現状です。今までは全てPCRで新型コロナウイルス感染の診断をしてきましたが、2月中旬からは外注PCRの結果が戻ってくるのに数日かかるようになったこと、院内PCR検査の試薬が枯渇してしまったことから、PCRはせずに抗原検査のみで診断する例が増えました(図1の期間中では56例)。また、明らかな家族内感染では症状のみで診断する「みなし陽性」も増えました(23例)。抗原検査のみの診断やみなし陽性が増えた理由として、ラゲブリオという抗ウイルス薬(内服薬)を重症化リスク例ではできるだけ早く処方する必要があったことも挙げられます。

以上は当院の発熱外来の状況ですが、2022/2/24にも述べましたように、施設内クラスターの発生で高齢感染者の入院が依然として多くみられます。県の調整本部からはほぼ毎日入院要請が入ってきます。こちらはピークを越えたようにはみえません。

今年に入ってからの新型コロナウイルスの変異種はオミクロンです。最近、ウイルス遺伝子に変化がみられるようになりました。
新型コロナウイルスの同定に使われる遺伝子は現在ORF1ab・S・Nの3つであることを以前お伝えしました(2022/1/31)。この3つの遺伝子のどれが発現しているかでどの変異種(株)であるかがおおよそ分かるともお伝えしました。アルファ株ではORF1ab+・S-・N+、デルタ株ではORF1ab+・S+・N+、オミクロン株ではORF1ab+・S-・N+です。オミクロンではS遺伝子の欠損があるのが特徴ですが、実はこの3つの遺伝子だけで見る限りオミクロンとアルファとの差はありません(2022/1/31)。
オミクロンはさらに変異を重ね、BA.2という新しい亜種ではS遺伝子の発現がまたみられるようになっています。
したがって、オミクロン蔓延中にS遺伝子の発現のある新型コロナウイルスが出てくると、オミクロンBA.2ではないか、ということになります。
これに注目してずっと追っかけていました。
すると2月中旬からS遺伝子が検出されるウイルスが現われ始めました。特に2月末以降、かなり見られるようになりました(図2下段)。
前述のようにデルタ株でもORF1ab+・S+・N+ですから、オミクロンBA.2だと断定はできません。デルタ再来の可能性は残されています。
デルタの特徴であるL452Rというアミノ酸配列変異を外注の検査会社は調べてくれていましたが、2月初めからオミクロンに置き換わったとして、アミノ酸配列変異の検査を止めてしまいました。そのため残念ながら「デルタではない」という証明ができなくなっています。しかし国内外の報告を読むと、2月中旬から現れたS遺伝子+の新型コロナウイルスはオミクロンBA.2であろうと推測されます。

オミクロンBA.2の感染性や病毒性についてはまだよく分かっていません。BA.1とあまり変わらないのではないかという推測を以前いたしましたが(2022/1/31)、そうではないのではないか、という考えがあるのも事実です。
注意深く見ていきたいと思います。

図2をよく見ると、2/17にN遺伝子-(検出せず)、S遺伝子+の例があります(Orf1abも+)。ひょっとして新しい変異種なのかもしれません。ただしCt値(Ct値については2022/1/24ブログ参照)は、S遺伝子34.5・ORF1ab 34.1とかなり高い(=ウイルス量が少ない)ためたまたまNが「検出せず」になった可能性も残されています(つまり新種ではない可能性もあり)。
2/18にはN-・S-の1例が見られました。これはORF1ab+により新型コロナウイルス陽性と判定された例です。このときのORF1abのCt値は24.8と比較的高いながらもしっかりとした数値であるので(=ウイルス量はそれなりにあるので)、N-・S-という新しい変異種の可能性は十分にあるように思えます。今後の研究発表を待ちたいと思います。

 

図1.当院発熱外来における新型コロナウイルス陽性者数の週別推移。PCR未実施の抗原検査陽性・みなし陽性を含む。入院や術前患者の陽性例は除く。

 

図2.新型コロナウイルスの変異種(株)の推測ができるようになった2021/4/19から2022/3/7までの全症例。表の最初の列は年月日(200419は2021/4/19のこと)、その隣の列はN遺伝子のCt値、その隣の列はアミノ酸配列異常または遺伝子の特徴を略記。N501Yはアルファ、L452Rはデルタ、「S遺伝子なし」はオミクロンBA.1と推測される(本文参照)。今年2月以降の「S遺伝子14.5」等の表記はS遺伝子が検出された場合のCt値を表している。