当院発熱外来での新型コロナ新規陽性者は先々週ゼロ、先週2名でした(図参照)。第8波は終息したと考えます。結局、BA.2系のXBB(グリフォン)もBA.5系のBQ.1(ケルベロス)も看板倒れになりました(2023/1/12ブログ参照)。
今後、第9波が現れるかは不明ですが、感染者は散発的に現れても大きな波にはならないように思います。根拠となるのは、昨年末に大阪大学感染制御部の忽那賢志先生が報告した内容です*。概要を以下に示します。
* https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20221203-00326683
昨年11月上旬(11/6-11/13)での献血時の残余血液を用いた検査で日本人の26.5%に新型コロナの抗N抗体が認められました。ワクチンで得られる抗体は主に抗S抗体です。一方、自然感染で得られるのが抗N抗体です。したがって抗N抗体を調べると罹患の既往が分かるというわけです。抗N抗体陽性率は地域差があり、長野県では9.0%と低く、沖縄県では46.6%と半数近くになっていました。
抗N抗体の調査は過去においても行われていました。全国の平均陽性率は2020年6月0.1%、同年12月0.68%、2021年12月2.5%、2022年2月4.27%と少しずつ上がっていましたが、2022年11月になって26.5%と急激に増加しました。いかにオミクロン株の感染力が強いかが分かるとのことです。
私なりにこう解釈しました。
ワクチンはコロナウイルスのS蛋白を標的とし、抗S抗体を産生することで感染防御に役立つとされてきました。一昨年夏のデルタ株(第5波)までは感染をよく防いだと思います。しかしオミクロン株はS蛋白の変異を繰り返し、ワクチンによる免疫をかわし続けてきました。第6波(昨年1〜5月)、第7波(昨年7〜9月)、第8波(昨年10月〜今年2月)は、オミクロン株の大流行によるもので、この大きな3つの波により自然感染が一気に増え、抗N抗体の陽性率も大幅に上がったということではないかと思います。
忽那先生はさらに、昨年11月上旬の抗N抗体が低かった長野県と高かった沖縄県のその後の流行の有無を報告しています。長野県では昨年10月中旬以降、第7波を上回る第8波に見舞われたのに対し、沖縄県では第8波と呼ばれる流行が起きませんでした。気候や環境の影響も考慮しないといけないとしながらも、抗N抗体が重要な因子になっていると述べておられます。
忽那先生の報告は第8波の前半でのデータに基づいています。今はそれから3ヶ月経ち、第8波をモロに受けましたので、抗N抗体陽性率は全国的には40-50%になっているかもしれません。そうであれば、沖縄県が抗N抗体陽性率50%近くで次の波を防いだのですから、第9波はないのではないかと推測するのです。
次にインフルエンザです。
昨年末から少しずつみられるようになりました。当院発熱外来では、昨年12月17日の初検出から先週までに27名のインフルエンザ陽性者がいました。A型26名、A型+B型1名でした。新型コロナとの同時感染が2名いました。年齢別には、10歳未満2、10歳代10、20歳代5、30歳代4、50歳代3、60歳代2、80歳代1でした。広い年齢層にわたりますが、今のところ若年に多い傾向があります。女14、男13で性差はないようです。
注意しなければならないのは、インフルエンザの診断法は当院では抗原検査だけだということです。新型コロナの診断には抗原とともに感度の優れたPCR検査が使えます。抗原検査はPCR検査よりも感度は格段に落ちます。また、インフルエンザでは発症(主に発熱)後12時間以内の抗原陽性率が著しく低くなります。新型コロナでは発症前から検査陽性になる例が多くみられるのと対照的です。
つまり、インフルエンザでは見逃し例がかなり多いと言えます。とは言え、大きな流行にはまだなっていないのも確かです。
コロナもインフルエンザも今後の推移を注意深く見守っていきたいと思います。
図.当院発熱外来における新型コロナとインフルエンザの陽性者数。2022年10月初めから2023年2月上旬までの週ごとの推移。新型コロナで言えば第8波に相当する期間。