コード・ブルーとは、病院内で心肺停止ないしそれに類する事例が発生したとき病院職員に対し全館放送で発する緊急コールです。コードは暗号、ブルーは青。青は医療現場では循環不良(チアノーゼ)を意味するとされます。この緊急コールの仕組みはアメリカが発祥と言われます。日本では「コード・ブルー〜ドクターヘリ緊急救命〜」というテレビドラマシリーズがヒットしました。ただし、コード・ブルー以外にもさまざまな言い換えが病院ごとに設定されています。私の前任地では「コール救急(99、QQ)」、現在の病院では「A体制」というアナウンスが流れます。
アメリカ医師会雑誌(JAMA)の今年7月6日号に「コード・ブルー、銃撃が始まったとき何をすべきか」という論説が載っていました*(下図)。
*https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2794174
いまだに銃の悲劇が絶えないアメリカです。この医学論説は、銃の悲劇を無くすにはどうすべきかを論じているわけではありません。銃撃の現場に遭遇した医療者が何をすべきかを取り上げています。
もし銃撃の現場が病院だったらどうするか。動けない患者を医療者はどう助けるか。
JAMA論文の結論は明快です。
「自分に命がなければ人は救えない」。だから「まず逃げろ。逃げられないときは隠れろ」。「隠れられないときは武器になるものを持って戦え」。もちろん「患者の支援ができるときは支援せよ」。
多くの医療従事者はこれらを銃撃現場で的確にこなすことはできません。だからこそ訓練が必要だ、というのが主旨です。
凄まじい内容です。
もちろん医療従事者に、自分の命を危険に晒さなければならないという義務はありません。したがって、どう行動するかは個人の決断に任せられます。しかしこうした状況をあらかじめ考えて準備しておく必要はある、という意見です。
あらかじめ考えておくこととして、例えば、最大リスクの患者は誰かを見極めておく、手術室・ICU・透析室・分娩室などは外部と遮断できるようにしておくことだと言います。後者には防火扉の設置が役立ちます。各部署には緊急止血用のターニケットとガーゼも備えておくべきです。
「銃撃に遭遇した際、ドアをロックし、電気を消すということは反射的に行えるように思われているが、そのためにはあらかじめ計画を立て、訓練する必要がある」という専門家のコメントを載せています。
銃撃を意図した人間を阻止するのは難しいとされます。しかし設備を堅牢化するのは可能です。入口付近は照明を明るくし非常ボタン・監視カメラ・遠隔でのドアロックとキーアクセス阻止が行えるようにする、目に付く場所に武装警備員を配置することも重要だと言います。9.11や学校襲撃事件を経験すると自由な出入りは犠牲にせざるを得ません。
報告の訓練も重要とのことです。暴力・暴言、武器への言及を見聞すれば保安部門にすぐ通報する、通常の場所以外にいる人物・ドアやセキュリティ設備の写真を撮影する者も報告すべしとされます。
受付に防弾ガラスを設置した例も挙がっていました。こうなると我々には少し抵抗があります。しかし日本でも、訪問診療も含めた医療現場で銃撃事件や放火が起きるようになりました。
少なくとも考え方をそろそろ変える必要があるように思えます。