スパコン富岳

今週、新聞やテレビは「スパコン富岳、計算速度など4部門で世界一」を大きく報じていました。
前世代の京(けい)が世界一を退くと、日本のスパコンは、中国やアメリカに王座を奪われ続けてきました。
「2位ではダメですか?」
今や懐かしいセリフです。

報道によると、富岳はそもそも世界一を目指したのではなく、結果がそうであったとのことです。富岳のコンセプトは「誰もが使いやすいオンリーワン」。省エネ化も進め、「京」の100倍の性能なのに消費電力は2-3倍にすぎないそうです。富岳の名称は「利用の裾野が広がるよう富士山にちなんだ」と言われています。

これを医療の仕事に当てはめると、日本一・世界一を目指すのが本意ではなく、あくまでも結果として高みを極めるということなのだと思います。
自分の目指した道を富士山になぞらえたことがあります。
若い医師に向けての講演で使ったスライドを図に示します。スライドにある臨床医学=内科学については2019/7/5のブログを参照ください。

専門医としてトップ(自分が考えるトップであって、他者との競争に勝ち抜いてのトップという意味ではない)を目指すのであれば、裾野を限りなく広くしなさい。「専門バカ」と言われる人は、鉛筆のようなものだ。どれほどの高みを目指しても裾野がないとせいぜい1メートルでしょう。富士山と同じ裾野を持てば、その高みは3776メートルになるはずだ。患者さんは、たった一つの病気を持っているわけではない。心筋梗塞、脳梗塞、腎不全、認知症、呼吸不全、糖尿病、こうした合併症を持った胃癌患者を外科医として、さあどうする?!
定型的な手術を行えばよいというものではあるまい。心筋梗塞、脳梗塞、腎不全、認知症、呼吸不全、糖尿病のそれぞれの専門医にコンサルトして「手術は可能か」と尋ねるのが外科医の務めなのか。アドバイスを受けるのはよいとしても、それをまとめて最終判断をするのは術者のあなたでしょう。脳神経、循環器、呼吸器、腎泌尿器、内分泌、精神の各領域に精通しなくて、どうして胃外科の専門医と言えるのか。裾野は広くもとようよ。

スパコン富岳の快挙にはほど遠いものの、理念は同じだと思いました。
自分は今、膵臓外科を離れ、総合診療の駆け出しをしています。うまくいかないことが多く、日暮れて道遠し、途方に暮れる日々です。ひたすら努力するほかないと覚悟はしています。しかし余命を考えると、鉛筆でもいいか・・・。いかん、せめて跳び箱5段を目指そう。