当院はリハビリテーションが重要な機能となっています。しかしリハビリ専門医の確保ではたいへん苦労しています。前任地の県立病院でも同様でした。
なぜこうもリハビリ専門医は少ないのでしょうか。
超高齢社会におけるリハビリテーション医学の重要性は、がん診療と比べ劣るとはとても思えません。リハビリは療法士が実際の訓練に関わるから、がんほど医師の役割は大きくない、という意見もあります。それは違うと思います。
がん診療においても、実際は看護師や薬剤師、技師と協働で行うのが当たり前になっていますし、相談室や医療連携室の関わりも大きくなっています。
リハビリにおいても医師を含めた多職種連携が必須であることは言うまでもありません。それなのに、多くの病院ではリハビリ専門医が確保できず、他の領域の医師が兼務しています。非常勤のリハビリ専門医でかろうじて繋いでいることも少なくありません。
私見ですが、その主因は医科大学(医学部)の教育体制にあると思っています。具体的には、リハビリテーション 講座(教室)を持つ大学が少ないからではないかということです。
東京を含む関東から北の33大学を調べたことがあります。すると、独立してリハビリテーション講座(教室)を持っているのは17大学、半数に過ぎません。残りの大学では講座(教室)ではなく附属病院の診療部門としてのリハビリテーション 部(科)を持つだけでした。しかも、講座(教室)がある大学でその開設年をホームページで調べると、不明だった5大学を除く12大学のうち8大学は2001年以降にできたものでした。
東京大学医学部(大学院医学系専攻科外科学専攻感覚・運動機能医学講座)リハビリテーション医学もその1つです。主任教授の芳賀信彦先生の言葉を引用します。
「リハビリテーション医学分野が外科学専攻の中に設置されたのは 2001 年 4 月である。 (中略)2001 年にリハビリテーション医学が設置されたとき、人員配置は配慮されなかったため、スタッフは教授 1 名のみである。 大学院学生は 2001 年 4 月から受け入れ、2008 年までに 11 名が入学 し、6 名が学位を取得して卒業した。しかし、当初は教員スタッフが配置されないだけでなく、研究室も配備されていなかったので、研究は学内外の関連施設の協力により遂行してきた。 医師スタッフは充足されていないこともあり、 リハビリテーション科は未だ病棟を運営していない。」(東京大学大学院医学系研究科・医学部年報 平成20年度.東京医学2009:118;267-269)
大学に講座を持つということは、研究室を持ち、スタッフ(教授の他に准教授、講師、助教)と研究補助員が割り当てられ、基本の研究費がもらえ、そこで初めて教育・研究・診療の体制が成り立つことを意味します。医学生に対しても早い時期から講義を施し、その分野の面白さを伝えるものなのです。
これが講座ではなく附属病院の診療部門だけになると、スタッフ・研究費・研究補助員の割り当ては極めて限られたものになります。医学生への講義も、例えば整形外科学の1コマ、多くて2-3コマを担当するだけになります。リハビリは整形外科だけでなく、脳神経・心臓血管・呼吸器・がん・小児の領域へとますます広げなければならないのに、です。こんな状態でリハビリテーション専門医を多く育成することができるでしょうか。
東京大学の例でも分かるように、講座(教室)を持てたとしても、初めのうちは冷遇を覚悟しなければならないようです。もちろん、そうではない大学も知っていますが、少数に過ぎないように思えます。
だから日本にリハビリテーション専門医が少ない、と考えるのです。最近の東京大学医学部年報(平成29年度)を読むと、リハビリテーション医学の講義は独自に7コマあり、必修の実習が3日間、選択で4週間の外部施設実習があるなど良い方向にあります。
全ての医科大学(医学部)でリハビリテーション 医学を講座として認め、教育・研究を充実させれば、状況は改善すると思います。しかし、溜め息が出るほどずいぶん先の話です。しばらくリハビリ専門医の奪い合いは続きます。
そうであれば、一般医師がリハビリにもっと関わっていくほかないようにも思えるのです。