今週前半は午後7時前後から内科の勉強のために時間を作りました。
テーマは10/25心不全、10/26腎不全(CKD)、10/27不眠症。いずれも製薬メーカー主催の講演会ですので薬剤の種類は限られます。しかしどれも現場でよく使われ薬ですので、作用機序や臨床評価の新たな理解に役立てようと思いました。
心不全はこのブログでも2回取り上げました(2019/8/1、2020/12/11)。高齢者の救急搬送では一定の割合で心不全の患者さんがいます。私が受けるのは慢性心不全の急性増悪です。急性心筋梗塞等に伴う急性心不全は私の手に負えませんので、高次医療機関にすぐ転送します。
心不全ではまずループ利尿薬(ラシックス®️など)を投与するのが一般的です。それに加えて作用機序の異なる利尿薬(バソプレシンV2受容体拮抗薬)トルバプタン(サムスカ®️)を投与するとその効果はどうか、というのが10/25の講演の骨子です。救急搬送された心不全患者にループ利尿薬とともにトルバプタンを救急室でほぼ同時に投与する超急性期の治療成績が示されていました。心不全は腎不全と重なっていることが多々ありますが、心不全での利尿薬の使用は腎不全を悪化させるリスクがあります。一方、トルバプタンの併用は、併用しない場合と比べ腎機能の悪化を招かないことが分かりました。当然、併用により心機能の更なる改善が得られましたので、トルバプタンは極めて有用ということになります。
腎不全も高齢者によくみられる病態です。しかも、心不全や呼吸不全を伴っていることが少なくありません。脱水は腎不全を悪化させますが、脱水を補正する輸液により心不全や呼吸不全が悪化します。そのジレンマの中で苦慮しながら治療に当たっています。CKD(chronic kidney disease=慢性腎臓病・腎機能低下)に対し史上初めて承認されたのがSGLT2阻害薬のダパグリフロジン(フォシーガ®️)です。SGLT2阻害薬はもともと糖尿病の薬で、尿中にブドウ糖の排出を促す薬効があります。その後、糖尿病患者はもちろん、非糖尿病患者の心不全にも効果があることが分かり、心不全の適応も獲得しました。さらに今年8月、CKDに対しても効果があること示され、適応が拡大されました。
今まで「腎保護作用」を謳う薬剤がないわけではありませんでしたが、明白に腎機能低下阻止作用が示されたのはダパグリフロジンが初めてとのことです。10/26の講演によれば、そのインパクトは専門家も驚くものでした(ただし、使用開始直後に腎機能は一時的に下がるのが特徴とのことです)。私の担当患者は高齢であればCKDは高頻度にみられます。透析への移行を減らすことが期待できるとのことですので、医療費の削減ばかりでなく、患者・家族の希望につながる治療法だと言えます。
不眠症は外来患者ばかりでなく入院患者でも問題になることが少なくありません。病棟看護師からはよく「不眠があるので睡眠薬の処方をお願いします」という依頼がいつもあります。ある薬を処方すると「効果がありません、別の薬の処方をお願いします」と言われます。強い薬を出すと昼間の傾眠につながります。リハビリにも支障が出ます。かと言って、睡眠が十分でないと夜間の覚醒、異常行動、転倒につながります。
定番のベンゾジアゼピン系の睡眠薬は可能な限り処方しないよう国からも学会からも要請されています(2020/2/25ブログ参照)。ベンゾジアゼピン系以外ではメラトニン受容体作動薬(ロゼレム®️)またはオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ®️、デエビゴ®️)となります。私には、ベンゾジアゼピン系以外の薬は効果が弱いという印象がありました。10/27の講演では、デエビゴ®️の利点と使用法のコツが丁寧に説明されていました。うまく使えば睡眠導入にも睡眠維持にも有用だということです。工夫して使ってみようと思いました。もちろん、「同じ時刻に毎日起床」、「光の利用でよい睡眠」、「規則正しい3度の食事と規則的な運動」、「昼寝をするなら15時前の20-30分」などの睡眠衛生指導がまず大切です。また、不眠をきたす可能性のある薬剤(降圧薬、アルファ/ベータ遮断薬、脂質異常改善薬、抗うつ薬、気管支拡張薬、抗パーキンソン病薬など)にも注意する必要があるとのことでした。
いずれの講演も企業主催ですので、それなりの注意は必要です。批判的な見方をしつつも自分の体験で客観視していこうと思います。