この8月から出退勤タイムカードを押すようになりました。
常勤でのタイムカードは生まれて初めてです。

12年以上前、大学に勤めていた頃、医師は裁量労働制でした。一定の労働時間を予め設定しておき(「みなし時間」)、その労働時間に見合う報酬が支払われる仕組みです。例えば、研究に従事する者は時間にとらわれると良い仕事はできません。自由な時間に出勤し、実験の進み具合によって帰宅の時間を決める。給与額は固定です。それが裁量労働制です。大学は研究もする機関ですので、裁量労働制は必要です。私はそう思っていました。

あるとき、病院機能評価を受審することになりました。大学病院の基本データを前もって日本医療機能評価機構に提出しなければなりません。事務部が作成したデータ一覧を受審準備委員会委員長として見ていて驚くべき数字に気づきました。
それは大学病院の従業員の年間平均労働時間を職種別一覧にした表を見たときです。
詳細な数字は忘れましたので適当な数を当てますと、例えば看護師は2031.345時間、薬剤師は2002.456時間というように細かな数字が並んでいました。ところが、医師の欄は1960時間となっていたのです。小数点以下が全くない整数です。大学病院の医師は、教授・助教授(准教授)・講師などのスタッフと呼ばれる役職者だけでなく、臨床研修医や後期研修医など様々な医師がいます。そうした医師の年間平均労働時間が小数点なしの1960時間だというのです。あり得ません。
事務の説明はこうでした。大学病院の医師は一律、裁量労働制であり、1日8時間の「みなし時間」で契約されている。週休2日制として祝祭日を除く年間の平日は245日。従って医師一人の労働時間は8 x 245 = 1960時間。全員同じなので平均をとっても1960時間である。
私はこう反論しました。
裁量労働制は研究職などに当てはまるので教授などはそれでよいかもしれないが、助手(助教)は研究よりも診療が中心である、大学附属病院のポストである病院助手などは、大学所属ではなく、病院所属である。従って仕事は研究ではなく病院の診療である。ましてや研修医は診療が100%のはずである。それを一律研究者扱いにするのはおかしいではないか。
しかし、事務は「国がそう決めている」の一点張りでした。確かに当時、大学病院の医師の裁量労働制について議論があったのを覚えています。文部科学省は大学病院の医師全員に裁量労働制が適応できると言い(予算が少なくて済むから)、一方、厚生労働省は実質労働時間の是正を求めていた(労務管理の責任者の立場から)ように記憶しています。国の中でも意見が割れていたということです。
大学を離れて久しいので、この問題は今どうなっているのか、少し調べて見ました。
「医師の働き方改革に関する意見書」(医師の働き方検討会議、2018年7月)によれば、「現在、大学病院において、医学研究の一環として診療に従事する医師が、「大学における教授・研究の業務」に携わる場合、教授・准教授・講師までが専門業務型裁量労働制の対象である。」とあります。つまり、15年前私が主張したような解釈に今はなっているようです。

勤務医は、研究者ではありませんので裁量労働制は適用されず、[給与+賞与]制か年俸制になっていると思います。県立病院では前者、当院では後者です。何れにしても、裁量労働制と異なり、勤務時間と勤務時間帯が規定されています。従って、タイムカードは必要だということになります。ほとんどの病院では今まで形式的でした(秘書が一律にハンコを押す、医師任せにしている、押しても押さなくても扱いは同じ、正確に押しても管理も分析もされない、など)。
こうして、勤務医の労働時間はいい加減でした。それが勤務医の過重労働に繋がった可能性はあります。私自身、どうしても「働き過ぎ」の傾向は否めず、このタイムカードを機に自分の「働き方改革」を行おうと思っています。当然、医師の報酬の適正化にも役立つように思います。それが行われるかどうかは別ですが。しかし、データは残ります。
皆さんの病院でも出退勤管理をしていますか。