新型コロナの感染地図をみると、岩手県だけいまだに感染者ゼロとなっています。様々な理由があるようです。
検査が少ないからではないか、検査をすれば感染者が出てくるのではないか、との意見があります。クラスターがないことを考えるとどうも違うようです。面積が広い、各都市が山地で隔たれている、人口密度が低い、という地理的要因ではないかとも言われます。移動が少ない、交流が少ない、ということのようです。これは東北各県や山陰地方にも共通することですので、ゼロは偶々なのかもしれません。
岩手県はときどき訪れていました(2019/9/27ブログ参照)。自治医大の関係で地域医療の現場を何度か視察しました*。盛岡には学会などで5回訪ねています。平泉、猊鼻渓、遠野には旅行で立ち寄りました。
*国保広田診療所(1995/8、陸前高田市)、県立大東病院(2002/8、旧大東町、現一関市)、国保藤沢町民病院(2002/8、旧藤沢町、現一関市国保藤沢病院)、県立伊保内病院(2003/10、九戸村、現二戸病院附属九戸地域診療センター)、県立千厩病院(2005/10、旧千厩町、現一関市)、県立釜石病院(2017/6、釜石市)、済生会陸前高田診療所(2017/6、陸前高田市)
新幹線の通る内陸中央地帯はともかく、海岸沿いや山間地の町に行くには時間がかかります。一ノ関駅から猊鼻渓・摺沢・千厩・気仙沼(宮城県)を経て大船渡・盛に向かう大船渡線は「ドラゴンレール」の愛称があります。曲がりくねった線路図が龍に似ていることから名付けられたとのこと。地形からのネーミングはユニークですが、車窓の景色からは生活環境の厳しさも感じました。
自治医大の卒業生はこうした地域の医療を義務年限の中で支えてきました。
ある年、自治医大岩手県県人会に呼ばれたことがあります。
そこに岩手県知事が出席していました。いくつかの行事のあと、9年間の義務を終えたばかりの自治医大卒業生3名が壇上に上がりました。知事が感謝状を読み上げ、1人1人に手渡し、感謝の言葉をかけていました。
私は多くの県の県人会に参加してきましたが、知事が出席するのを見たのは初めてでした。聞けば、知事は毎年出席し、義務を果たした医師に感謝状を渡しているとのことでした。知事は早退することなく最後まで残っていました。
自治医大の卒業生は、卒業後9年間を各県の僻地・地域で医療に従事することが義務付けられています。多くの苦労があったはずです。某県では、県の人事に散々翻弄された末、義務が明けると同時に「二度と県には戻らない」と言って去って行きました。
自治医大卒業生が義務明け後も同じ県内に残る地元定着率は平均70%です。岩手県はトップクラスの90%近くあります。しかも他県出身の自治医大卒業生が義務明け後に岩手県に就職してくる人もいて、それまで含めると定着率は100%を超えます。
日本のチベットとかつて言われた岩手県には、自治医大卒業生以外にも地元の岩手医大関係者や他大学卒業生も多く活躍しています。強制されて僻地に行くのではなく、自ら進んで行くところに特徴があるようです。
こうしたエピソードが新型コロナ発生ゼロとひょっとすると関係しているのかもしれない、と思い紹介しました。
(図説明:自治医大での外科研修を終え、送別会の席で次の赴任先を笑顔で伝える岩手県卒業生。この数年後、県立大槌病院が津波に襲われたとき、彼は別の県内病院に勤務していて災害医療に全力を尽くした。)