私の医学生の頃から内科学の教科書の定番は「ハリソン」でした。
外科医をしながら改めて内科を学ぼうと思い、数十年ぶりに購入したのが第18版の「ハリソン」(2012)です。医学生に戻って第1章臨床医学入門から1頁、1頁読み進めていきました。そのとき感じたのは、この教科書は内科の本ではない、臨床医学の本である、ということでした。だから、医学生たる者、医師たる者、内科医であろうが外科医であろうが、眼科医であっても整形外科医であっても、耳鼻科医・泌尿器科医も全て、この本を読むべきだと思いました。
「ハリソン」の章立てを示します。
第1章 臨床医学入門
第2章 臨床症候学
第3章 遺伝子・環境医学
第4章 再生医学
第5章 老年病学
第6章 栄養学
第7章 腫瘍学・血液病学
第8章 感染症学
第9章 テロ関連臨床医学
第10章 循環器病学
第11章 呼吸器病学
第12章 集中治療学
第13章 腎泌尿器科学
第14章 消化器病学
第15章 関節リウマチ学
第16章 内分泌代謝学
第17章 神経病学
第18章 中毒病学
第19章 高山病・潜函病
この章立てを見て、どう思いますか。
「ハリソン」は内科学の教科書だとされています。それは大きな誤りだというのがお分かりいただけませんでしょうか。一般の内科学から想定する範囲を大きく超えています。だからこそ「内科学」(Internal Medicine)ではなく「臨床医学」(Clinical Medicine)だという私の主張があるわけです。このことはこのブログでも紹介しました(2019.7.5)。
次の主張に移るにあたり、「ハリソン」で扱う領域のページ数を比較してみます。
18章のそれぞれのページ数を多い順に並べると次のようになります(第19章「高山病・潜函病」は付録になりますので対象外とします)。
感染症学 761
臨床症候学 393
腫瘍学・血液病学 361
内分泌代謝学 359
神経病学 342
循環器病学 286
消化器病学 250
関節リウマチ学 214
腎尿管学 121
呼吸器病学 112
臨床医学入門 89
集中治療学 84
栄養学 58
遺伝子・環境医学 51
老年病学 32
テロ関連臨床医学 31
中毒病学 19
再生医学 18
わが国で内科を標榜する医師のうち専門科として多いのは、循環器内科、消化器内科、呼吸器内科あたりだと思います。しかし、「ハリソン」が扱う領域の最多は感染症学がダントツの1位です。感染症が専門だという内科医はどれほどいるでしょうか。日本ではほぼ皆無です。
感染症学の次は腫瘍学・血液学、内分泌代謝学、神経病学となります。その次に循環器病学が入ってきます。今の日本に循環器病学や消化器病学の専門医が多いのはケシカランと言っているのではありません。感染症学があまりに軽んじられている日本の内科学を憂いているのです。もちろん「ハリソン」のページ数が内科領域の重要性の評価につがなることのエビデンスはありません。
それでも私が言いたいのは、感染症学がいかに重要か、ところが、日本の大学医学部には感染症学講座がほとんどない、という事実です。内科学の講座として現在ほとんどの大学にあるのは、循環器内科・消化器内科・呼吸器内科・(脳)神経内科・血液内科・膠原病リウマチ内科・内分泌代謝(糖尿病)内科・腎臓内科です。なぜ感染症内科がないのか、少ないのか。なぜこのようなことになっているのか。
新型コロナウイルスの発生以前から、感染症学講座の少なさが日本の大学医学部の大きな問題の1つだと考えていました。ほかに、腫瘍内科学講座の少なさも問題視しています。いずれ取り上げるつもりです。
類似の事例はリハビリテーション医学にも通じます。これは2019.6.14のブログで主張しました。併せてお読みください。