慢性頭痛も「主役はあなた」

最近、慢性頭痛の講演会が続きます。
理由の1つは、片頭痛に対する新しい薬が登場したからです。新薬については後ほど述べます。

聴講した講演会は2つ。1つは3/24の「第1回さいたま片頭痛研究会」、2つ目は4/18の「変わる!これからの片頭痛診療〜薬剤師の役割とは」です。
ここでは埼玉精神神経センター国際頭痛センターの坂井文彦先生の講演を中心にまとめてみました。他の先生からの情報も適宜入れてあります。

まず頭痛の分類です。頭痛の種類に応じて治療法は異なります。正しく診断しないと治療法を誤ってしまいます。
頭痛は大きく分けて一次性頭痛と二次性頭痛とがあります。一次性は機能的な(=目に見えない)原因による頭痛です。片頭痛・緊張性頭痛・群発頭痛など慢性的な頭痛がこれに当たります。
二次性頭痛は器質的な(=目に見える)原因によるもので、急性の症状が特徴です。くも膜下出血・脳動脈瘤破裂・脳出血・脳腫瘍・髄膜炎・急性緑内障発作・副鼻腔炎などです。二次性頭痛は生命に関わるものが多く、見逃すことの許されない病気ばかりです。したがって医学生の頃から二次性頭痛の原因疾患についてはそれなりに勉強してきました。
一方、一次性頭痛=慢性頭痛については勉強したという記憶が私にはありません。坂井先生の調査によると、さいたま市の15歳以上の人口97万人のうち片頭痛患者は推定8万人、医療を必要とする時々寝込む片頭痛患者は約3万人、重症度が高く早急に適切な医療を必要とする患者は約3千人いるとのことです。ところが片頭痛患者の7割は頭痛のために一度も医療機関を受診したことがないと言います。慢性頭痛のもうひとつ緊張型頭痛の患者は約21万人いると推定されます。

慢性頭痛の診断の難しさは、頭痛の診断マーカーが「本人の訴えのみ」であることです。そのため自己診断が重要です。
片頭痛の自己診断として坂井先生は「3点チェック法」を勧めていました。
ときどき起こる頭痛で次の3点セットがそろえば90%の確率で片頭痛とのことです。
◯動くとつらい、ときに生活に支障がある
◯胃がむかつく・吐き気がある、吐くこともある
◯光がまぶしい(光・明かりで頭痛増悪もある)。
「静かな暗い部屋で寝ているのが一番」というのも特徴です。

一方、緊張型頭痛は頭が締め付けられるような痛みで、ほとんど毎日起こる、肩や首が凝(こ)る、ふわふわしためまいがある、などの特徴が見られ、一般的には運動でまぎれます。

頭痛のつらさは他人には理解されないという悩みがあります。頭痛を自分で観察し、整理することが大切だと坂井先生は言います。そのために「頭痛ダイアリー(日記)」をつけることが勧められます。頭痛ダイアリーにより頭痛情報が医師にも正確に伝わり診断の確認と治療に役立ちます。何よりも頭痛の誘因を患者自身が推測するのに役立つとのことです。

片頭痛の特異的治療薬としてはトリプタン製剤が有名でした。トリプタンは内服の他にも点鼻薬や皮下注射薬があります。しかし治療薬であっても予防的に使うことはできません。慶應大学神経内科専任講師の滝沢 翼先生によると、片頭痛の予防薬として抗てんかん薬やカルシウム拮抗薬、抗うつ薬、β遮断薬などが使われるようですが、副作用(眠気、低血圧など)があるのと、効果発現に2ヶ月程度かかるのが問題だとのことです。

そこで、片頭痛の最新の薬の話になります。新薬は抗CGRP抗体です。CGRP(calcitonin gene-related peptide;カルシトニン遺伝子関連ペプタイド)は三叉神経から放出されて脳硬膜の血管壁を拡張させる作用があります。この硬膜血管拡張が片頭痛の原因とされます。抗CGRP抗体はCGRPをブロックすることで頭痛発作を抑えるということです。抗体薬ですので注射(皮下または点滴静注)になります。基本は1ヶ月に1回の注射です。3ヶ月に1回という製剤もあります。抗CGRP抗体を受けた2人に1人は頭痛日数が半減するという効果があります。予防薬かつ治療薬です。全身的な副作用がほとんどないのも特徴とされます。

慢性頭痛は正しく診断し、適した治療を行うことがますます求められてきました。
どちらの講演会にも共通していたのは、頭痛の診療に患者自身の関与が不可欠だ、という点です。そう患者を指導するのが医師と薬剤師の務めだ、ともいうのです。

がん(2021/10/19ブログ「主役はあなた〜参療とがん検診について〜」)や心臓病(2021/11/6ブログ「循環器も『主役はあなた』」)と同じく、慢性頭痛の領域でも患者参加型の医療が重要だということになります。