当院でも今週からCOVID-19に対する抗体カクテル療法が使えるようになりました。商品名はロナプリーブ®️(中外製薬)。2つの抗体(カシリビマブとイムデビマブ)から成ります。
商品名は日本語として発音が比較的容易で、覚えやすいと言えます。一方、2種類の抗体の名前は発音がしにくく、覚えるのが難しそうです。100回声に出して読み上げると発音が何とかサマになります。今朝の段階で私はプロの薬剤師並みにすらっと発音できるようになりました。
これは抗体医薬品が出始めた頃にも経験しました。
リツキシマブ、ベバシズマブ、トラスツズマブ・・・。舌を噛む名前に戸惑いました。
マブはmabで、モノクローナル抗体(monoclonal antibody)の意味だと知ると、少し理解が進みます。
抗体はB細胞というリンパ球が作ります。通常、多種多様なB細胞は色々な抗原に対し多種類の抗体を作るのですが、B細胞のがん(骨髄腫;ミエローマ)をうまく使えば1種類の抗原に対する1種類の抗体を大量に作らせることができます。これを応用して、がん抗原やウイルスに対する1種類の抗体を大量に作り出し、これを医薬品として使っているのがモノクローナル抗体です。
実際に抗体を作るのはマウス由来のB細胞です。マウスが作った抗体は異種の蛋白ですので、ヒトに抗原反応(アレルギー)を起こします。そこで、抗体の最重要部分を残して他の部分はヒトと同じ蛋白に取り替えたキメラ抗体が次に出てきました。ちなみに、キメラとは、ギリシャ神話に出てくる怪獣で、頭はライオンですが、胴体に山羊の頭、尾に蛇の頭があります。1つの抗体の中にマウスのものとヒトのものとが混ざっていることからキメラ抗体と名付けられたようです。キメラ抗体は-ximabキシマブで表されます(例:rituximabリツキシマブ=リツキサン®️)。しかしこれでもマウス由来の部分が多く、アレルギーが生じやすいとしてマウス由来の部分を可能な限り最小にし、その他はほとんどヒト化させたヒト化抗体(-zumab ズマブ)が出きてきました(例:bevacizumabベバシズマブ=アバスチン®️、trastuzumabトラスツズマブ=ハーセプチン®️)。その後、遺伝子組み換えのマウスを使って完全にヒトと同じ完全ヒト抗体(-umabウマブ)ができるようになりました(例:nivolumabニボルマブ=オプジーボ®️)。従って、抗体の名前のmabの前をみると、-xi-ならキメラ、-zu-ならヒト化、-u-なら完全ヒトだと分かります。
上記の抗体名は、中間部分で標的を表す字句が付けられています。例えば腫瘍(tumor)に対する抗体には-t(u)-(rituximab、trastuzumab)、免疫(=リンパlymph)には-l(i)-(nivolumab)、血管・循環(circulation)には-c(i)-/-ci(r)-(bevacizumab)という具合です。
すると、舌を噛む名前にも親しみが出てきます。
ちなみにアルツハイマー病に対する抗体療法の話題を取り上げたことがあります(2021/6/10ブログ)。抗体の名前はアデュカヌマブでした。アルファベット表記するとaducanumabです。-n-は神経(neural)を表し、-u-は完全ヒト抗体を意味し、mabはモノクローナル抗体です。
先頭の語は開発者が色々な思いで付けるようで、アデュカaduca-、ベバbeva-、ニボnivo-、トラスtras-、リri-には何らかのメッセージがあるのかもしれませんが、よく分かりません。
2017年に抗体医薬品の命名法が変わりました。ネズミ由来の-o-、キメラの-xi-は姿を消し、ほとんどが完全ヒト抗体になったためわざわざ由来を示す必要がなくなったためではないかと推測します。標的の後にすぐmabが付くようになりました。
今回の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するモノクローナル抗体は間違いなく最近の抗体です。従ってその名前はウイルス(virus)に対する-vi-をmabの前に置く-vimabビマブとなっています。完全ヒト化を意味する-u-はありません。
前述のように先頭の語には開発者の思いが込められているのかもしれません。カシリビマブ casirivimabのカシリcasiriを調べてみると、アンデスの山とあります。また、イムデビマブ imdevimabのイムデimdeはベルギーの城の町(村?)のようです。たまたまなのか、別の意味があるのか、よく分かりません。ご存知の方がおられたら教えてください。