抗体治療薬の効果について

抗体カクテルを発症7日以内・重症化リスクのある10名に使ってみました。
劇的効果を得たかというと、あまり実感がありません。
投与後に高熱が劇的に治まったという経験は今のところありません。逆に酸素化(酸素飽和度)が悪化して日帰り入院から通常の入院に移行した例が複数ありました。もちろん、経過良好例もありますが、抗体治療のおかげかは分かりません。重症化リスクがあっても対症的な治療のみで改善する例もかなりあるからです。また、今回特例承認された抗体カクテル薬のデータはデルタ株まん延以前のものですので、デルタ株についてはどうかが気になるところです。
わずかな経験で軽々しく結論すべきでありません。まず文献的に調べてみました。

現在、世界に出ている新型コロナに対する抗体治療薬はウイルスのスパイク蛋白をターゲットにしています。ウイルス変異株はスパイク蛋白の変異で分類されていますので、各変異株に対する有効性には関心があります。

私どもの病院の周りでは、現在、新型コロナウイルスはほぼ100%、L452Rという変異を持つデルタ株です。
デルタ株に対する抗体治療薬の効果を調べた論文が最近2本出ました。

2本とも試験管内の実験データです。1つはNature 2021/8/12に載ったフランス・パスツール研究所からのものです。Natureは世界有数の科学雑誌ですし、パスツール研究所はウイルス研究のメッカです。我々が使っているカシリビマブとイムデビマブの効果について結論を言うと(アルファ株との比較で)、カシリビマブはデルタ株に対してもほぼ同程度の効果あり、イムデビマブはデルタ株に対しては中等度劣る、ということでした。これを読むと、2つの抗体のカクテルであればデルタ株には悪くないと言えることになります。

もう1つの報告はドイツ・フランクフルト大学からでmedRvix 2021/8/9に掲載されています。未査読論文ですので臨床の判断基準にしてはいけないという警告が雑誌社から出されています。
こちらのデータによれは、アルファ株と比較すると、デルタ株に対しカシリビマブとイムデシビマブはどちらも(合わせても)かなり劣るとの結論です。

ちなみに抗体の効力(中和抗体力価)をみる方法が2つの論文では異なります。パスツール研究所ではS-Fuseアッセイという「偽ウイルスの侵入を発光量で測定」する方法(数値は中和するパーセントで表すため高いほど有効)、フランクフルト大学ではCPE(cytopathic effect)という「ウイルスによる細胞障害を顕微鏡でみて測定」する方法(数値は障害細胞数の割合で表すため低いほど有効)です。

方法と表示は別でも結論としてどちらが正しいのか。よく分かりません。
現場の医師としては、実際の臨床での成績を待ちたいと思います。