新型コロナウイルス感染症の感染対策

第360回ICD(感染コントロール医師)講習会が5/9の日曜日、会場とオンラインのハイブリッドで開かれました。私はオンラインで聴講しました。以前も述べましたが(本ブログ2019/12/2、2020/2/17、2020/8/24)、ICD資格維持には定期的な単位の取得が必須であるにもかかわらず、65歳以上だと講演会聴講は免除になります。個人的なこだわりから勉強のためと思い、必要な単位の取得を目指してきました。

今回のテーマは「医療機関における新型コロナウイルス感染症の感染対策」。
コロナ第4波の真っ最中ですので時宜にかなった企画です。
①外来診療における感染対策の注意点、②内視鏡・超音波検査等実施の際の注意点、③入院患者の診療上の注意点、④院内感染を防ぐための方策、の4つの講演がありました。

当院で従来注意していたことの再確認ではありましたが、日本の最先端の病院でどのような対策をとっているのかを知るよい機会でした。

外来での対策は救急患者の対応が特に重要であること、内視鏡検査では標準予防策をとっていれば感染の恐れはほとんどないことを学びました。

都内の大学病院からの発表は参考になりました。予定入院患者全員1万2千人余りにPCRを行なったところ、4人の陽性があったがうち2人はクラスター発生からの検査であったので、結局、PCRの全数検査が有用だったのは2人(0.017%)に過ぎなかったとのことです。一方、入院時PCRは陰性だったが入院後に陽性(有症状)となったのが4人いました。また、緊急入院患者約5500人では37人(0.7%)の陽性が見つかりました。うち主訴が発熱、呼吸困難、濃厚接触者、味覚異常などコロナ感染を疑わせる症状だった人が30人でしたので、それ以外の7人(めまい、嘔吐、意識障害など)(0.12%)はPCR検査をしなければ見逃された可能性があります。予定入院よりも緊急入院患者の方がPCRの有用性が高いということのようです。これらを踏まえ、日常的な標準予防策の徹底、疑い患者の早期発見・早期隔離、患者・家族の協力と教育を強調していました。

都立病院からは2度の院内感染の経験を発表していました。コロナ感染者の一般病棟への紛れ込みは今後も起こり得る、入院患者の全数PCRで解決できるものではない(入院患者・術前患者全員のPCRは行わない)、職員の定期的検査は不可能である、結局、標準予防策をきちんと行うことが奨められる、というまとめでした。

私が最も知りたかったのは、面会禁止のエビデンスです。残念ながら今回の講演ではほとんど取り上げられませんでした。
唯一、③で昭和大学臨床感染症学部門の時松一成氏が「ハザード対策の階層構造」として挙げている中に「科学的根拠が乏しい」・「正解がない」の項目がありました。具体的には、ハザード除去策としての「入院制限・診療制限」・「スクリーニングPCR」・「面会制限」・「入院時検温」・「就業制限」は、「科学的根拠が乏しい」・「正解がない」というのです。
「面会制限」にエビデンスが少ないというのは臨床現場での私の印象と同じです。

病院ですので一定の面会制限は必要です。パンデミックに関係なく以前からありました。一方、医療者は感染防護策を講じて患者と毎日面談します。そうならば、医療者に準じた対策をとった上での面会は許容されるように思えてなりません。もちろん、エビデンスに乏しければ何をやってもかまわないとまでは言いません。

患者にとって身近な家族や親しい知人は、医療の根幹「患者支援」という点から医療者でもある、という思いを私はずっと持ってきました。「参療」に通じる考え方です(本ブログ2019/5/28、2019/10/7)。医療者と同じく、自らの健康管理と感染対策ができるという条件で「短時間」の面会は許容してあげてもよいと考えます。「家族や知人は所詮素人」との考えは医療者の驕りのように思えてなりません。

家族・知人との面会が、薬や注射よりもはるかに治療効果の高い場合が少なくありません。医学的な意味だけでなく、人間としての尊厳にも関わってきます。とくに終末期においては面会制限を考え直してもらいたいと願っています。終末期で個室に移せれば「長時間」の面会も許されるように思います。医療従事者と同じ対応がとれるように指導してあげることも大切だと思います。

新型コロナウイルス感染症の院内感染対策については、医療者のワクチン接種がほぼ完了しましたので、全般的な見直しがそろそろ必要かもしれません。