新型コロナワクチンの安全性

前回のブログ(2021/1/18)で述べましたように、新型コロナワクチンはCOVID-19パンデミックの制圧に期待が持たれています。
その一方で、新しいmRNAワクチンへの不安があるのも事実です。何しろ従来のワクチンとは異なるタイプだからです。

どんなにデータを積まれてもワクチン不信者の不信は払拭されないようです。ある程度やむを得ません。それでも世界の中ではどう考えられているかを知るのは悪いことではありません。
海外のデータを出すと、日本人は違うかもしれない、という疑問を持つ人はいます。その視点は大事だと思う一方、全体の流れを掴むことも大事だと思います。

新型コロナワクチンについてのFAQ(よくある質問)がニューイングランド医学誌(NEJM)の最新号に掲載されていました。簡単にご紹介します。
このFAQは一般の人からではなく医師からよく受ける質問です。回答者はハーバード大学のポール・サックス教授。FAQの中からワクチンの副反応に関する部分を示します。なお、ワクチンは、現在アメリカで接種されているファイザー社とモデルナ社の2つの製剤を取り上げています。

「①短期の安全性はどうですか?
2つのワクチンは総合的にみれば安全だと言えます。このことをきちんと患者に伝えるべきです。もちろん、医療の全てに言えることですが、絶対安全というものはありません。ワクチンもそうです。しばらくの間、新しいワクチンの安全性が問われることになるでしょう。まれな事象が起きればニュースになり、実際のリスク以上に不安を人々に与えることになります。我々の使命は、こうしたまれな事象を将来に生かし、ワクチンの副反応はCOVID-19のリスクよりもはるかに低いことを強調することです。
2つのワクチンはともに反応源性(reactogenic)というカテゴリーに入ります。すなわち、免疫反応が速やかに引き起こされるためにワクチンを受けた人のほとんどに何らかの副反応が生じます。これは季節性インフルエンザのワクチンとは異なる点で、どちらかと言えば遺伝子組み換え型ワクチンである帯状疱疹ワクチン(Shingrix)*の副反応に似ています。
*註:水痘帯状疱疹ウイルスの表面に存在する糖タンパク質E(gE)を抗原とし、アジュバントシステムを添加した組換えサブユニットワクチン。

最多の副反応は注射局所の痛みです。主に接種12-24時間後に生じます。治験者の1%は痛みの程度を「強い」としました。局所の痛みに続いて多かったのは倦怠感と頭痛で、高熱は比較的少ないものでした。いずれの副反応も数日で自然寛解します。症状が強ければアセトアミノフェンやNSAIDが有効です。副反応は一般に高齢者よりも若年者、1回目よりも2回目に多くみられます。
ベル麻痺(顔面神経麻痺)が対照群よりもワクチン接種群に多かったという報告がありますが、症例数は少なく有意な差があるかどうかの結論は出ていません。ギラン・バレ症候群や横断性脊髄炎の報告はありません。

アレルギー反応(過敏反応、アナフィラキシー)は、2つのワクチンとも治験では対照群にもワクチン接種群にも同様に生じるという結果でした。しかし、イギリスとアメリカで実際の接種が始まると、重度アレルギー反応が報告されるようになりました。その原因は今のところポリエチレングリコールではないかとされます。2つのワクチンともこの物質を含んでいます。まれとは言え、こうした副反応があることから、ワクチン接種後15分間(アレルギー既往例では30分間)の観察が必要とされます。
強調すべきはこうしたアレルギー反応はまれだということです。アナフィラキシーは今のところ約10万回に1回と推測されます。確かに他のワクチンより高い傾向があります。しかし、ペニシリンによるアナフィラキー(1/5000)よりもずっと少ないはずです。ペニシリンアレルギーは実際に生じてもマスコミに報道されることがなくなったように、ワクチンのリスクについても周知を図ることが今後の課題だと考えます。(2021/1/11現在の情報による)

②長期の安全性はどうですか?
2つのmRNAワクチンの治験が始まったのは2020年の夏です。わずか数ヶ月の観察期間しかありません。年の単位ではないのです。一般のワクチンでは重篤な副反応は数日から数週のうちに起きます。幸い、ワクチンの長期的な副反応はまれです。当初関連があると思われた反応も、緻密な人口ベースの研究で訂正されてきました。2つのワクチンの安全性については今後、ワクチン有害事象報告システム(VAERS)に情報が集められることになっています。VAERSは1990年に設置された全国的な早期警報システムで、ワクチンの安全性に関する疑義を網羅してきました。また、アメリカ予防疾病管理センター(CDC)はスマートホンを使う独自の取り組みをしています。新型コロナワクチンに関する情報を被接種者から直に自由意見やアンケートの形で集めようというのです。(2021/1/11現在の情報による)」

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前回のブログ(2021/1/18)で新型コロナワクチンのアナフィラキシーショックはおよそ1万回に1回と書きました。先日の埼玉県のワクチン説明会で出てきた数字です。上記のFAQでは10万回に1回となっています。ただし、他のワクチンよりは高いということは一致しています。それなりの注意が必要です。

欧米では既に数百万人がファイザー社の新型コロナワクチンを受けています。高齢者がワクチンを受けたら亡くなったという海外報道がありますが、バイアスの問題には常に注意が必要です。最終的には「緻密な人口ベースの研究」で結論が出るはずです。
日本人は違うのではないか、という疑問を持つ人は、初期の接種状況をぜひ見てください。最初に接種を受けるのは医療従事者です。私も受けます。その結果をぜひ見てください。