先週金曜日の夜、岐阜に移動しました。翌日の日本外科感染症学会2日目に朝から参加するためです。
私はこの学会の会員としてInfection Control Doctor (ICD)の認定を受けています。ICD認定番号はSI 0007。SIは外科感染症学会所属を意味し、その学会(当時は研究会)の中で7番目に認定されたということのようです。早い時期(2000年7月1日)に取得したためだと思います。
ICDの更新には、感染症対策の院内活動に関与していることのほかに、感染症関連の学会に参加し、指定講習会を聴講してポイントを稼がなければなりません(5年間に50点以上)。日々の診療が忙しいため期限切れ直前の年に、感染症関連の学会(外科感染症学会10点、それ以外の感染症関連学会5点)に1回参加し、関東地方で開催される講習会(1回15点)を3回受けると50点に達します。これで二度更新しました。4年前の3度目のとき、65歳以上は学会の会費さえ納めていれば無条件に更新できることを知り、簡単に済ますことができました。
来年2020年は4度目の更新です。現在の病院で院内感染対策に再び関わるようになりましたので、72歳になってもポイントを貯めて「きちんと」更新することにしました。今回の外科感染症学会参加で10点を獲得してきたというわけです。
来年は講習会に3回参加する予定で既に申し込みを済ませました(テーマや内容の多くは仮のものです)。
① 2月15日(土)15:20〜第35回日本環境感染症学会総会学術集会時第323回ICD講習会(横浜)
「こんな時どうする?〜求められるICTの対応力〜 1. 外来で水痘患者が発生した時、2. 妊婦の結核対応、3. 病棟内での麻疹対応、4. ICTラウンドで対応に苦慮した事例、5. TDMで苦慮した症例」。
② 4月18日(土)17:00〜第94回日本感染症学会総会学術集会時第328回ICD講習会(東京)
「東京オリンピック・パラリンピック-事例から考える危機管理- 1. 結核集団感染事例から考える危機管理、2. 麻疹対策、3. 髄膜炎菌、4. 国内侵入リスクの高い熱帯ウィルス感染症、5. 寄生虫感染症、5. 蚊媒介ウィルス感染症」。
③ 9月27日(土)14:00〜第21回日本病院総合診療医学会学術総会時第339回ICD講習会(さいたま市)
「輸入感染症-早期診断や院内伝播防止にどう備えるか- 1. 輸入感染症とは、2. 医療渡航患者(インバウンド)を発端としたアウトブレイクから学んだこと、3. 感染制御部における臨床検査技師の役割」。
感染症をめぐる話題は年々変わります。来年は東京オリンピック・パラリンピックです。海外から大勢の人が日本にやってきます。競技場の観覧席などで肩と肩とが接するように数千人〜数万人が集まる「マスギャザリング」があちこちで見られるはずです。「マスギャザリング」による感染症拡大は容易に想像できます。しかも普段みない輸入感染症を身近にみる可能性が高くなります。来年の講習会はこの点を扱ったものが多いように思えます。
さて、今回の外科感染症学会の成果は何だったでしょうか。
久しぶりの本学会への参加ですので感染症の基本を学び直したいと思い、「入門講座」を中心に聴講しました。特に勉強になったのは慶應義塾大学救急医学の佐々木淳一先生の「熱傷診療における感染症管理」です。広範囲熱傷は大学病院クラスでないと扱えませんので、私自身が関わることはありません。しかし、熱傷に不可避的に発生する重症感染症への対応は、日常経験する重症肺炎の診療に通ずるものがあると思い、その視点で講義を聴きました。大切なのは、抗菌薬の蛋白結合率・組織移行性・溶解特性(水溶性/脂溶性)・排泄経路(肝/腎)を理解してPK/PD(薬物動態/薬力学)解析を行うこと、とのことでした。完全に理解できたとは言えませんが、例えば蛋白結合率の高い抗真菌薬では、高用量投与で遊離型薬剤の血中濃度を高く保たなければならない(アルブミンと結合していない遊離型が抗菌作用を示す)、ということのようです。そのためには治療薬剤の血中濃度モニタリング(TDM)が欠かせません。いずれにしても重症感染症ではMRSA・緑膿菌・真菌への対応を十分に行うことが必須です。また、菌交代現象が繰り返し起きますので、保険外診療となっても週2回の培養は必要とのことでした。それによって同一薬剤のオン・オフが繰り返し行われることもあるとのことでした。
これらは重症肺炎にも応用できそうです。PK/PD理論では肺炎や下気道感染の場合、MRSAに対するバンコマイシンの投与量は、血流感染に対してよりも数倍多くしないと効果がないという文献があります。これからの診療に役立てたいと思います。