無症状期・発症初期に新型コロナウイルスを見つける重要性

Nature Medicine 4月15日号に新型コロナウイルス感染症発症者の「感染させやすさ」を調べた報告*が載りました。
*https://www.nature.com/articles/s41591-020-0869-5

新型コロナウイルスSARS-CoV-2を検出するPCR(polymerase chain reaction、ポリメラーゼ連鎖反応)検査とは、次のような検査だと理解しています。
SARS-CoV-2はRNAウイルスです。PCRで増幅できる核酸はDNAですので、RNAをまずDNAに変換しなければなりません(reverse transcription、逆転写)。そのDNAを通常のPCRにかけます。1回のサイクルでDNAは倍になります。2回繰り返すと4倍、3回だと8倍となります。何回のサイクルで検出感度(=閾値)を越えるか、を示す数値がCt values(cycle threshold値、閾値到達サイクル数)です。41回以上繰り返しても閾値に達しない場合(Ct>40)、「SARS-CoV-2検出せず」つまり「陰性」と判断されます。
一方、少ない回数で閾値に達すれば、ウイルス量が多い、つまり「感染させやすい」と言うことができます。複数回の咽頭PCR検査を行ったPCR陽性患者94人のデータの1つを示します(下図)。
発症日を0日とすると、その日が最もウイルス量が多く、その後は徐々に減っていき、21日目およそ3週間でほぼ検出感度以下となる傾向があります。減少曲線からすると、0日以前、つまり発症前も感染性が高いのではないかと推測されます。
この報告では、別のグループでの調査として、感染させた者(infector)と感染させられた人(infectee)との関係が明らかな77組について、接触期間と両者の発症日との関係を疫学的に調べています。それによると、感染させた者が無症状のときに接触した人が感染させられている例が15組ありました(報告中に数字は出ていませんが図から筆者が読み取りました)。以前のデータも加えて、感染力は発症2.3日前(95% CI, 0.8-3.0日前)から起こり、感染力のピークは発症後0.7日(95% CI, -0.2-2.0日)と推測されるとのことです。

この報告から言えることは、無症状の時期にすでに人への感染性が起こり、発症直後にウイルス量が最も多く、他人に最も移しやすい、ということのようです。ということは、発熱外来で診察したその日にPCR検査を実施すべきだということにならないでしょうか。「37.5℃以上が4日以上続く場合に相談センターへ」という方針ではなく、もしPCR検査に余裕があるのであれば、発症後できるだけ早い時期に検査すべきだということになります。PCR検査の感度が最も高くなり、かつ、感染力の最も高い人をチェックできるからです。

1つの報告だけで言い切るのは危険ですが、確実なエビデンスを待っている時間はありません。発熱外来での対応、あるいは、入院患者や病院職員の発熱への対応にぜひ生かしたいと思います。

なお、男女別だと(下図)、発症直後のウイルス量は男性よりも女性に多いのに、女性のほうがずっと早くウイルスが減少します。どのような意味があるのか考えないようにしますが、ウイルスを駆除する力は女性のほうが強そうです。これは、重症者・死亡者の割合が女性に少ないことと関係しているのかもしれません。男女差について別の報告を待ちましょう。急ぐことではありません。