先日、アメリカ医師会雑誌(JAMA)に生活習慣と認知症との関係について詳細な報告が出ました(JAMA online July 14, 2019)。アメリカの医学誌ですが、報告はイギリスからです。

対象は約20万人、約8年の経過を追った調査です。どのような生活習慣が認知症のリスクを上げるかを見たものです。
まず、遺伝子的な素因があるかないかで希薄・中間・濃厚の3群に分けます。

次に、それぞれの素因で、「好ましい」生活習慣をしている人としていない人とでどれほどの差がつくのかを調べました。
「好ましい」生活習慣とは、現在禁煙、運動習慣、健康的な食事、適度な飲酒の4つです。禁煙は、過去の喫煙歴に関係なく現在吸っていなければ禁煙とします。
好ましい運動・食事・飲酒の内容は細かく決められています。
例えば運動は、適度な運動:週150分以上、強めの運動:週75分以上、あるいは適度な運動:週5日以上、強めの運動:週1日以上などが好ましい運動習慣とされます。
好ましい食事も詳しく定義されています。①果物:毎日3回(servings)以上、②野菜:毎日3回以上、③魚:週2回以上、④加工肉:週1回以下、⑤未加工赤肉:週1.5回以下、⑥全粒穀物(玄米など):週3回以上、⑦精製穀物(精米など):週1.5回以下の7項目中4項目以上が好ましい食事とされています。
適度の飲酒はどうでしょうか。男女別、酒の種類別に細かく規定されていますが、要するにアルコール量で言えば、男:28g以下、女:14g以下です。男が毎日飲めるのは、ビールだと中瓶1本まで、ワインはグラス2杯まで、日本酒だと1.5合までです(それぞれ規定内で飲めば全て飲めるという意味ではありません、誤解なく)。休肝日をつくれば、1回の飲酒量はその分増えます。

こうした生活習慣4つ(禁酒、運動、食事、飲酒)のうち、3つ以上満たすグループ(好ましい生活習慣)、2つ満たすグループ(中間的な生活習慣)、1つ以下のグループ(好ましくない生活習慣)の3群に分けます。

さて、結論です。
遺伝子素因別3群と生活習慣別3群との組み合わせで計9グループできます。各グループの認知症発症リスクは図1のようになります。遺伝的な素因が希薄な人で好ましい生活習慣をしている人のリスクを1とすると、同じ希薄な素因でも好ましい生活習慣をしていない人のリスクは1.52と約50%上がります。遺伝子素因が濃厚な人は、好ましい生活習慣をしていてもリスクは1.95と約2倍になってしまいますが、生活習慣が悪いとリスクはさらに増して2.83と約3倍に上がります。
遺伝的な素因は仕方ありません。そうであれば生活習慣を好ましいものにしてみる価値はあるということだと思います。また、どのような素因であれ、好ましい生活習慣をしているとリスクは半減すると思えばよいということになります。
こうした好ましい生活習慣と疾患との関係、特にがんとの関係は、日本の全国的なコホート研究(多目的コホート研究 JPHC Study)でも証明されています。生活習慣の項目も今回とほぼ同じです。がんリスクは好ましい生活習慣で下がるという結論も同じです。国立がん研究センターが出している「がんリスクを減らす健康習慣」(図2)も参考にしてください。

こうした研究には限界があるのも事実です。項目の設定が大雑把すぎる、長い人生での生活習慣は均一なものではない、人種や環境で異なる結果が出るのでないか、未知の要因があるかもしれない、など異論はあると思います。今回の論文でもそのことに触れています。
それでも参考になると思いますので、紹介しました。

ところで、「人生は1回きり、楽しく生きさせてよ。所詮、リスクはせいぜい半減、ゼロにはならないよな」という人も多くいます。
その気持ちも分かります。
個人的な事柄と、公衆衛生という広い立場との違いなので、気持ちに差が出るのはやむを得ません。