5年ぶりに眼鏡を作り替えました。正確に言うと、フレームは同じでレンズを替えました(写真右下)。
医師とくに外科医にとって眼は腕とともに最重要です。
見えなければ縫えません。見えれば縫えます。
拡大視すればするほど精細に見え、手技はますます精緻になります。
脳神経外科や形成外科の顕微鏡手術が然りです。
ロボット手術器械「ダヴィンチ」の利点の1つも拡大視効果です。
私自身は見たことがありませんが、卵子に精子を入れる顕微授精も、顕微鏡で卵子が見え、見ながら卵子に操作を加えることができるからこそ、成り立つ手技です。
消化器内視鏡や気管支鏡、腹腔鏡や胸腔鏡、関節鏡、膀胱鏡、脳室鏡の進歩で、各分野の内視鏡手術が発展してきました。普及の最大の要因は、体の中が見えるようになったからだと思います。見えるから処置ができる、見えるから操作ができる、そういう話です。
一方、見えないと話になりません。
昔の外科医の大多数は、50歳を過ぎると手術に関わるのをやめました。目が見えなくなるからです。老視や白内障のために見えなくなってしまうのです。
もちろん、老眼鏡は昔からありました。しかし、老眼鏡をかけると手前は見えても奥が見えにくくなります。手術は三次元の術野を瞬時に見ながら進めます。奥行きのある凹凸の中で位置を素早く捉えながら操作を進めます。高齢になると、手の動き、目の動き、ものを捉える早さ、処置する早さが衰えます。白内障に至っては処置なしでした。
今はよい時代になりました。70歳を超えても手術に活躍する外科医が増えました。視力の観点で外科医の寿命を伸ばしたのにはいくつもの理由があります。1つは遠近両用眼鏡の普及です。私も20年以上愛用しています。今回の新しいレンズも遠近両用です。遠くは地平線が、近くは「20cm先の1mmの膵管」が見えるように作ってもらいました。2つ目は手術用ルーペの利用です(写真左上)。顕微鏡を使わなくても数mmの血管、胆管、膵管の確認・縫合にはたいへん便利です。3つ目は内視鏡手術の発展です。1〜1.5メートル先のモニターを見ながらの手術ですので、老視は問題になりません。
私の目は若いときからの近視と乱視、50歳頃からの老視が絡み合っています。幸い白内障は今のところ無縁です。先輩や同輩、ときに後輩が白内障の手術を受けています。人工の眼内レンズを入れると手術はどうなのか。個人の秘密事項になるのか、そういう外科医が少ないのか、話があまり漏れてきません。
ともあれ、眼は大事にしましょう。若いときからの注意が必要です。紫外線の暴露には十分気をつけてください。