神経障害性疼痛の特別講演会〜教育の重要性

昨夜、神経障害性疼痛の特別講演を聞いてきました。
疼痛の訴えに対しどのような対応をしたらよいか、私自身常に悩んでいます。
高齢者の診療に関わると特に悩みは深まります。癌性疼痛はオピオイドを中心にすればよいのですが、お年寄りに多い筋骨系の痛みは対応に難渋します。アセトアミノフェン(カロナール)が基本だと思いますが、キレが今ひとつのときロコソプロフェン(ロキソニン)などのNSAIDやトラマドールに頼ることになります。その場合、腎機能や胃粘膜への影響、めまいやふらつきに気を遣わなければなりません。悩みに応えてもらえることを期待して聴講してきました。

演者は、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター准教授・部長の住谷(すみや)昌彦先生でした。麻酔・ペインクリニックの立場から、痛みをとることの意味を熱く語っていました。
筋骨格系は年齢とともに衰え、動きが悪くなります(ロコモティブ症候群、略してロコモ)。動きが悪いばかりでなく同時に痛みが生じてくるようになります。腰痛が典型です。痛みがあると動けなくなり、骨や関節、筋肉がさらに衰えます。運動機能が一層衰えると、歩こうと思っても歩けず、落ち込みます。自己達成感が削がれます。自己達成感がないと気分は落ち込みます。気分が落ち込みと余計動きたくなくなります。ロコモの悪循環に陥ります。
そこで、鎮痛の意味が出てきます。鎮痛は単に痛みを除去することにとどまりません。痛みがなければ運動ができます。運動ができると自己達成感が生まれます。運動には鎮痛作用もあるそうです。さらに自己達成感が出てくれれば痛みが感じにくくなります。従って、痛みをとることは、ロコモの悪循環を良循環に変えることになります。
このあと講演は、多くの腰痛や肩こりの原因になっている神経遮断性疼痛に対する新しい鎮痛薬の話に移って行きました。具体的な製品名は避けますが、鎮痛の分野にも新しい薬剤が登場してきています。さらに情報を集め、高齢者の疼痛に対応していきたいと思いました。
講演はここまで「起」・「承」で来ました。このあと「転」に移りました。
「転」は、次のような内容でした。
「健康に対する貢献度をみた場合、『診療としての医療』の貢献はわずか20%にすぎない。しかし、『健康行動の教育が果たす医療』の貢献は大きい。」
痛みをとることは単なる誤魔化しではない、痛みがとれることで運動ができることを患者に理解してもらう教育が大切だというのです。患者の理解があってこそ治療効果は最大限引き出せるということです。
住谷先生は「教育は最良の鎮痛薬である “Education is the best analgesic.」と言って「結」とされました。

医療における教育の重要性はこのブログでも指摘してきました。

を問いかけてきました。
患者を巻き込んだ医療こそ本来の医療だということを住谷先生の講演を聴いてあらためて感じました。