昨年12月に開催された第34回日本内視鏡外科学会では多くの演題を見逃しました。幸い、オンデマンドで主題演題と教育セミナーの視聴が可能です。
この連休は2日間ほぼ座り放しで視聴しました。
最新の機器(マイクロ波シザーズ[アクロサージ®️])を知り、ロボット手術の浸透を目の当たりにし、小児外科・整形外科・婦人科・心臓血管外科などでの新たな発展を学ぶことができました。
その中で一番時間をとって聴いたのは肥満手術でした。特別企画・シンポジウム・パネルディスカッション・ワークショップで合わせて6つのセッションを視聴しました。若手外科医の熱気ある議論を聴いていると、肥満手術がいよいよ普及の時期に入ったことを感じました。内科からの評価も高いとのことでした。そうした期待に応えるためにも手術合併症を絶対に起こさない覚悟が必要だという決意も聞きました。
肥満症とそれに伴う糖尿病・高血圧症・脂質異常症の治療は、本来、内科的であるべきです。食事療法・運動療法・薬物療法ということになります。しかし、高度の肥満症となると内科的治療には限界があります。海外では早くから肥満手術が行われていました。日本人には「超」が付く高度肥満症は少なかったこともあり、肥満手術は40年前まで行われませんでした。
1982年、千葉大学第二外科(現 先端外科学)の川村 功先生が日本で初めて肥満手術を実施しました。当時は開腹手術でした。川村先生はその後、栃木県の下都賀総合病院に異動され肥満手術を続けられました。私が栃木県の自治医大にいた1997年に初めて川村先生の肥満手術を見学させていただきました。手術台から落ちそうなほど大きな患者さんでした。開腹して胃の上部で胃を切離し胃上部と小腸とをつなぐ手術でした。日本でもいずれ肥満手術が必要だと感じましたが、開腹ではなく腹腔鏡でできればよいと思いました。
1998年、アメリカ・カリフォルニア州サン・ディエゴでの国際内視鏡外科学会に参加したとき、腹腔鏡下肥満手術のライブがありました。ペンシルベニア州ピッツバーグ大学の手術室と会場とを結んでの生中継です。術者はDr. Philip Schauer。術式は川村先生の開腹手術と同じでした(胃上部切離+胃空腸ルー・ワイ吻合)。それを腹腔鏡で施行していました。手術の最初から最後まで2時間半、ノーカットでの実況でした。
日本に帰ってから上部消化管グループに腹腔鏡下肥満手術を勉強するよう提案しました。
その後、自治医大では細谷好則先生(現 教授、第37回日本肥満症治療学会会長)と春田英律先生(現 講師、四谷メディカルキューブ出向中)が腹腔鏡下肥満手術を確立してくれました。
現在、肥満手術のうち日本で保険適応になっているのは腹腔鏡下スリーブ状胃切除(laparoscopic sleeve gastrectomy、LSG)です。胃を細長い管にすることによって胃の容量を減らす手術です。先進医療ではスリーブ状胃切除にバイパス術を加える手術も認められています。肥満度(通常はBMI≧35)や合併症の程度で手術の適応は厳格に決められています。
スリーブ状胃切除のあと、体重は20-30%減少し、糖尿病や高血圧、脂質異常の改善も60-85%に期待できます。その一方で無効例や再発例(リバウンド)も20%程度にみられます。5年以上経過すると徐々に体重が戻ってしまう傾向もあるようです。
こうした肥満手術再発例や手術適応のない肥満症には内視鏡的スリーブ状胃形成術(endoscopic sleeve gastroplasty、ESG)が行われるようになっています。ただし、日本では保険適応はなく、先進医療でも認められていません。臨床研究として始まったところです。今回の学会発表を聞く限りではまず手術的なLSG、それが難しい場合は内視鏡的なESGだろうとのことでしたが、方向性は今後変わる可能性があるようにも思えました。
肥満手術は肥満に付随する糖尿病や高血圧症、脂質異常症を一気に解決する可能性があります。その意味では、肥満に対する手術というだけでなく、メタボ外科治療だ、とも言えます。英語でmetabolic surgeryと言われる所以です。
しかしながら高度肥満症の治療は内科と外科だけでは限界があります。肥満症には精神的・心理的な問題も内含されています。そのため、精神科医、臨床心理士、看護師、管理栄養士、薬剤師、理学療法士など多職種による治療チームが関与する必要があります。総合的な診療の重要性は全ての医療分野に必須とは言え、特にこの領域では強く求められています。