腕時計

私事で恐縮です。
先週、腕時計を失くしました。
21年間愛用したものです。日本製かつ光充電かつ電波時計です。電池を換えることなく、ネジを巻くことなく、時刻調整もせず、20年以上休まず正確に動き続けていました。デザインがよく、本体は信じ難いほど薄く軽いものでした(最新モデルよりも薄い!)。ベルトは何度か替えましたが、本体に傷はほとんどなく、20年以上経っても新品同様でした。さすがmade in Japanだと思っていました。

先週は前回述べましたように腰痛に悩まされました。
週の半ば、放射線科の透視室で中心静脈カテーテルを挿入する直前の手洗いで、左腕の腕時計を外してズボンの右ポケットに入れました。これが記憶に残る最後です。
重いプロテクター(鉛入りの放射線防護衣)を着ながら処置を行っていると、病棟から呼び出しがありました。挿入が無事終わり、白衣を急いで羽織りながら病棟に向かいました。腰が痛いため階段には向かわず、ドアがちょうど開いたエレベータに飛び乗りました。病棟の緊急の用件は短時間で済みました。そのほかに報告や指示がいくつかありました。プロテクターと前屈みの姿勢で腰がかなり痛くなっていたので、いつもより苛立った口調になっていました。午後5時が迫っていました。急いで他の階の病棟にも立ち寄って、報告を受け指示を出しました。ポケットにある腕時計のことは気になっていましたが、白衣のボタンを外すのが億劫になっていました。病棟から逃れるように自室に戻り、白衣を着たまま小さなソファに仰向けに寝ました。脚がはみ出ても寝ると腰は少し楽になりました。
20分ほど経ち、さあ残りの仕事をやるぞと、おもむらに起き上がりました。
腰が軽くなっていました。白衣のボタンを外してズボンの右ポケットに手を入れました。右のポケットにはスマートホンと自宅駐車場の鍵などが繋がって入っています。他に車の鍵と自宅玄関の鍵が一緒になったのも入っています。何度まさぐっても、中身を全部出しても、腕時計はありませんでした。左のポケットには財布と小物入れ(シャチハタ・小型はさみ・USB)と病院の自室の鍵などが一連で繋がったのを入れています。それを取り出しても腕時計はありません。
発熱外来や外来・病棟の処置のとき腕時計は時々白衣のポケットに入れることを思い出し、白衣の右ポケットのもの(ペンライト・感染症プラチナマニュアル2020)、左ポケットのもの(ビニル袋入りのゴーグル)を取り出しました。が、腕時計はありませんでした。
痛みをこらえて床に頭を近づけ、ソファの下を探しました。ありません。
放射線科に戻って、透視室・手洗い場・床・ゴミ箱を技師と一緒になって探しました。ありません。各階の病棟も探しました。ありません。エレベータの中にもありません。外来受付の当直事務員に落とし物が届いていないか尋ねましたが、ありません。
翌日になれば見つかるかと思い、足を引きずりながら帰宅の途につきました。翌日、何の知らせもありませんでした。週末になっても私の腕時計は出てきませんでした。

日曜日は、腰痛緩和のため天井を眺めながらベッドの上で過ごしました。
このとき、考え方を変えました。変えるべきだと思いました。

腕時計はもはや時間を見るためだけではないだろう。
時刻以外の情報を収集するのに活用しよう。ということは、スマートウォッチだ。紛失したあの時計がある限りスマートウォッチを着けることは絶対になかったはずだ。紛失したからスマートウォッチを考えるようになった。今回の紛失は「よかったこと」としよう。前を向こう。

横になりながらネットでスマートウォッチの情報を集めました。その結果、時刻以外の付加価値は健康データだと確信しました。
調べると多くの種類がありました。意外と安いものばかりでした。高価格はアップルウォッチでした。高くても機能に満足できればよいのですが、私には不要な機能が多すぎると感じました。スマートホンを別に持てば、何も腕時計にメール着信を知らせてくれなくてもよいでしょう。
健康データでも心拍数は意味がありません。頚か手首を触れれば簡単に分かります。歩数も不要です。消費カロリーも不要です。欲しいと思ったのは心電図+酸素飽和度でした。
大学生の頃から発作性上室性頻拍がときどき起きます。リズムが不規則でひょっとすると心房細動かと思うこともあります。あの「発作」の心電図を記録したい、と思いました。また私には40年来の気管支喘息があります。呼吸困難で救急搬送されたこともあります。自分自身の喘息発作時の酸素飽和度を測定したい、と思いました。
心電図と酸素飽和度の両方があるのは全て made in Cでした。精度が気になります。「心電図+日本製+スマートウォッチ」で検索してもmade in Cだけが出てきます。調べると日本製とは日本製センサーを使っているということのようです。
食わず嫌いではいけない。安いのだからダメもとで試せばよいのでないか。注文しようか。迷いました。まだ迷っています。

それにしても、あの腕時計、どこに行ったのか。
Made in Japan、どこに行ったのか。