藤原隆洋氏の作品

昨年11/8のブログで親戚の美術家の作品を紹介しました。「親戚を紹介するのは公私混同」との誹りは免れませんが、正真正銘の本物がたまたま親戚だったとお考えいただきお許しください。

前回のブログでこう書きました。

「In the Darkness」は期待以上でした。(中略)暗闇の中のわずかな光に浮かび上がる幽玄の世界。人の動きなのか、計算された微風なのか、1万本の細い糸が微妙に揺れます。数mmの振れ幅です。糸の途中には細かな細工が施され、下から見上げると無数の星が闇に漂います。説明によれば、作家が初めてこの美術館に足を踏み入れたときにひらめいた作品とのこと。したがって、この美術館のためだけの作品だということになります。

この美術館とは、富山県入善町の発電所美術館(図1)。水力発電所としての役目を終えた施設を美術館にしています。黒部山塊の水が激しく流れ落ちていた導管は静まり返り、周りは雑草で覆われていました。その導管の巨大な切り口は展示室の壁の空洞となっていました。そこに「Somewhere」、すなわち「In the Darkness」と「Under the Surface」が設置されていました。
ブログでは私の拙い写真をお見せしました。実物はこんなものではない、という思いから文章による紹介をしました。
カタログの写真も良かったのですが(図2:左 In the Darkness・右 Under the Surface)、この作品の良さを示すのは動画だと思いました。

作家から先日、ビデオ*が送られてきました。静止画では表現できなかった細部、雰囲気が動画で再現されていました。言葉で伝えられなかった世界が表現されています。
*https://www.youtube.com/watch?v=9BjVO7HYIbE

前回のブログでは「Under the Surface」には触れませんでした。この動画でぜひご覧ください。
昨日、レアンドロ・エルリッヒ氏の「スイミンブ・プール」を紹介しました。実際にブールの底に入ったときの感想は「淡白」だったと述べました。「下からの眺めは、上からの眺めには及ばない」とも述べました。
しかし、藤原隆洋氏の「Under the Surface」は下からの眺めの超越性を表現しています。心静かに見上げると、心の底に触れるひとときが生まれます。

発電所美術館の展示は今年の春に終了しました。
作品はその後どうなったのでしょうか。
作者に尋ねたところ、「すべて処分した」とのことでした。

「あの空間に合わせて制作したので、たとえ糸をきれいに保管できたとしても、他の空間で流用することはない」。

「美」とはこういうものなのでしょう。