前回、フリースタイル リブレ®️(以下リブレ)について次の3つの問いかけをしました。
Q1.リブレの血糖*値は実際の血糖値とどの程度異なるのか。
Q2.リブレのセンサーごとに血糖*測定値の差はどの程度あるのか。
Q3.リブレの血糖*測定値の経時的な感度低下はどの程度あるのか。
昨年9月末から始め、1年間のデータを集めました。
実際の血液中の血糖値を簡便に測定できるのは血糖自己測定器です。指先に細い針を刺して1滴の血液を出し、これを試験紙またはチップに吸わせて本体器具で測定するものです。患者自身が測定できるので、自己モニターブドウ糖値(self-monitoring blood glucose [SMBG])と呼ばれます。
多くの血糖自己測定器があります。リブレにも試験紙の付属がありSMBGが測定できるようになっています。しかしリブレのSMBGは信頼性がなく正しい血糖値の比較には使えませんでした(図1、常陽藝文2018年8月号より引用)。
その後、各社のSMBG装置を試しました。医療現場で看護師が多用しているのが結局は信頼性が高い、と分かりました。今回の1年間のデータ採取では、テルモ社のメディセーフフィットチップを採用しました。
予備実験で血糖値が安定して得られることを確認したうえで、実験を開始しました(全て個人負担)。
当初は1日何回もリブレ血糖*値とメディセーフ血糖値とを比べていました。リブレ血糖*値のほうがたまに高く出ることはありますが、ほとんど低く出ます。メディセーフフィットチップが高価なので、1日複数回から最終的には1日1回の測定(夕食後2-3時間の時点)に変えました。
リブレ血糖*値とメディセーフ血糖値の測定を1日1回行っても日ごとに異なる値が出るのに気づきました。
センサーは2週間ごとに交換します。1年間では26個のセンサーを使用しました。それぞれのセンサーが夕食後2-3時間の時点で測定した血糖*値と、メディセーフで測定したSMBGの血糖値との差を図2に示します。センサー設置当初はメディセーフ血糖値よりも高めに出るセンサーがいくつかありますが(設置初日は平均-5mg/dL)、設置後1週間を過ぎるとほぼ全てのセンサーでリブレ血糖*値は低めに出ます。1つのセンサーでも日ごとのバラツキが大きいと分かりました。しかし、傾向として徐々に感度は低下していきました。2週間後のセンサー交換直前にはメディセーフ血糖値よりも平均28mg/dL低く出ました。
リブレ血糖*値は24時間休みなく測定します。一方、メディセーフによるSMBGでの補正はあくまでも1日1回です。センサーは2週間しか有効ではありません。この2週間分のリブレ血糖*値の平均血糖*値は本体の器具から簡単に出ます。その数字に、1日1回のメディセーフSMBGの2週間分(14日分=14回分)のリブレ血糖*値との差(低めの値)の平均値を加えれば、リブレの平均血糖*値を修正することができます。
平均血糖値からHbA1cを推測する式は次のようであることがリブレのメーカー、アボットから明示されています。この式はNathanらの論文(Diabetes Care、2008:1473-1478)に出ている式(平均血糖値=HbA1c×28.7-46.7)に準拠するようです。
すなわち、
HbA1c=(平均血糖値+46.7)/28.7
図3は上記の式で計算した場合、リブレの出す平均血糖*値から直接算出した「無修正推定HbA1c」とリブレの血糖*値の修正値から出した「修正推定HbA1c」とを2週間のセンサーごとに経時的に示しています。実際の採血でのHbA1cの実測値を赤丸で示しました。「修正推定HbA1c」が実測値をかなり反映していることが分かります。
3つの設問の答は次のようになります。
Q1.リブレの血糖*値は実際の血糖値とどの程度異なるのか。
A1.日ごとにかなりのバラツキがあるが、平均すれば、センサー設置直後には-5mg/dL、7日後は-17mg/dL、終了の2週間後には-28mg/dLとなる。
Q2.リブレのセンサーごとに血糖*測定値の差はどの程度あるのか。
A2.メディセーフ血糖値との差はセンサー設置初日では、+26〜-26mg、7日目では-3〜-37mg/dL、センサー交換直前の14日目では-14〜-54mg/dLとセンサーごとにかなりのバラツキがあった。2週間の平均では-6〜-31mg/dLであった。
Q3.リブレの血糖*測定値の経時的な感度低下はどの程度あるのか。
A3.A1で述べたように、いずれのセンサーも設置後2週間の間に徐々に感度は低下する。平均すると、センサー接着直後であれば-5mg/dL、7日後は-17mg/dL、2週間後の終了直前には-28mg/dLとなる。
執拗にリブレを追い続けて1年。
私の現在の課題は運動量を増やすことです。コロナを言い訳にしてはいけないように感じます。
リブレはもうしばらく使おうと思います。
リブレ血糖*値を修正するためにメディセーフ血糖値を今後も毎日続けるか、については現時点では否定的です。2ヶ月に1回の採血によるHbA1cをみて平均血糖値を推測し、それによってリブレ血糖*値を修正して考えればよい、と思います。HbA1cは2-3ヶ月前の平均血糖値と相関するとされていますので、HbA1cが安定していればメディセーフ等による修正は不要です。HbA1cが不安定であればリブレ血糖*値の修正が必要になるので、一時的にメディセーフを使ってもよいと考えます。
振り返ると、多くの患者、医師が感じているように、リブレに振り回されなくてよい、という結論になります。しかし、最初に述べたように、食事や運動が血糖*に及ぼす影響を自分で確かめることができるリブレは有用です。保険で認められているリブレの適応はインスリン注射中の患者に限られます。私としては耐糖能異常のあるかたは自費であってもリブレを試しに使ってみることをお勧めします。私のように長期に試す必要はありません。
結局、今回お示ししたデータがなかったために、私は長期にわたりデータを集めることになったということです。
患者と医師にこのデータが役立つことを願っています。