認知症の進展防止:クロスワードは脳トレに勝る

ニューイングランド医学誌(NEJM)は世界のトップジャーナルです。その医学誌が確固たるエビデンスになる論文を紹介しているのが NEJM Evidenceです。その10月27日号に「軽度認知障害ではクロスワードは脳トレに勝る」という論文が載っていました(下図)。

認知症の改善や予防のために専門家が開発した脳力トレーニング(脳トレ)ゲームがあります。最も有名なのがアメリカLumos Labs社のルモシティです。日本語版も市販されています。「脳トレ」+「ルモシティ」で検索してアプリをダウンロードし、お試し版を試すのもよいでしょう。そんな面倒なことをせず、およその内容を知るには次のURL*を読むのがよいかもしれません。
*https://fytte.jp/news/healthcare/64359/
この脳トレゲームは脳科学者が作ったものですから有効性に疑いはないように思えます。しかし、科学的に検証すると効果ありとするのもあれば、否定するのもあります。

今回、NEJM Evidenceが紹介した「クロスワードは脳トレゲームに勝る」は、クロスワードパズルの認知症予防効果を明らかにしたものです。脳トレゲームはLumos Labs社のアプリを使用しています。クロスワードパズルも同じLumos Labs社が開発したものとのことです。いずれもインターネット経由でプレイします。

軽度認知障害と診断された55歳から95歳の107名を無作為に2群(脳トレゲーム群 vs クロスワード群)に分け、それぞれ12週間の集中トレーニングのあと6回の追加訓練を行い、開始から78週(= 1年半)後の認知障害(アルツハイマー病評価スケール認知 [ADAS-Cog]スコア;高いほど認知機能は低下)の変化を見ました。発症時期や患者の年齢などは2群間に差がないように振り分けています。その結果、1年半後のADAS-Cogスコアは、脳トレゲーム群では増加(9.53→9.93)、クロスワード群では減少(9.59→8.61)しました。すなわち、クロスワード群は脳トレゲーム群に勝っただけでなく、クロスワードの認知機能改善効果も証明したのです。

この結果について、クロスワード作家のパトリック・メレル氏は同誌11月22日号の論説で「驚きだ!」と感嘆符を付けています。当初、Lumos Labs社は逆の結果、つまりルモシティが勝つと予想していたそうです。メレル氏によれば、クロスワードパズルは、語彙力・横方向思考・読解力・スペリング・記憶力・洒落・ユーモア・古典的知識・現代知識などが要求されると言います。謎解きのスキルも必要だと言います。メレル氏自身、抗がん剤で脳が曇る「ケモ・フォッグ」を経験し、クロスワードで脳の曇りが晴れ、新たなパズルまで作成できたと述べています。一方、脳トレゲームは狭い領域の課題を達成する特定のスキルを評価し訓練するものだとのこと。たとえば「機関車ラッシュ」(お試し版あるいは前述の*参照)は正確かつ迅速な操作が高得点につながります。正確性・迅速性の評価・訓練にすぎません。メレル氏はこう付け加えています。「脳トレゲームもクロスワードも受けない群を設定していたら結果はどうだっただろうか」と。

いろいろ考えさせられる論文でした。
御同輩、クロスワード悪くないみたいですよ。