年末に喪中のお葉書がいくつか届きました。
その中に小学校の恩師の娘さんからのお知らせがありました。先生が91歳で亡くなられたとのこと。小学校3年から6年まで組替えなく4年間、先生の教えを受けました。
先生はクラスの卒業記念誌(図1)の最後に「卒業する皆さんへ」を書いておられます。
あらためて読んでみました。
先生は「最後の言葉」を次のように残しておられます。
「一生けんめいに勉強してください。」

一生けんめい勉強し、学習の効果を上げるために必要なことを7つ挙げておられました。
① 勉強できることは有難いことです
② 質問をすること
③ 辞書を引くこと
④ 勉強がすきになること
⑤ 先生をすきになること
⑥ たしかめる心
⑦ 偉人伝を読みなさい

「勉強できることは有難いことです」の理由を先生はこう述べておられます。
「世界のどこに、いつの時代に『一人残らずの人が、国の費用で中学校に学べる』というような幸せな時代があったでしょうか! 今では働きながら勉強できる夜学の高等学校もあれば、通信の大学もあります。水呑み百姓の小せがれでも、働きながら、最高学府を究めることができるのです(筆者註:先生ご自身のことです)。私たちは、この幸福な時代に感謝すると共に、更にしあわせな世の中を作るために勉強しなければなりません。
戦争のために十分勉強ができなかった私は、大学の通信教育部に籍をおいて、今でも勉強しています。通信教育というのは、大学から送って来る本を読んで、手紙で質問しながら勉強をすすめていく制度のことです。質問しても、その返事は一、二ヵ月も待たなければ得られません。こうして勉強を続けていると、ターヘル・アナトミアを何年もかかって訳出した杉田玄白の苦心がわかるような気がします。
通信教育では、昼間の仕事に疲れて眠ってしまえば誰も起こしてくれません。自分で自分に鞭打つよりほかはないのです。しかし皆さんの行く中学校はちがいます。先生が手をとって直接教えてくださいます。よそ見をしていれば注意もしていただけます。皆さんは(今までもそうであったように)教室へいって机にすわっているだけでよいのです。社会は皆さんを、そのようにたいせつに扱っていてくれるのです。
歴史的にも、年令的にも、皆さんは今、本当に恵まれた時点にいるのです。このことをよく理解してしっかり勉強してください。」

都内の中学校に進むことになった私を励ましに先生は家に来てくださいました。そのときの写真が手元にあります。蕾をつけた桜の若木が背景に写っています(図2)。私は12歳、先生は32歳でした。
その後、人生の折に触れて先生は葉書や手紙をくださいました(図3、4)。温もりのある筆跡と心遣い、少しも変わりませんでした。
訃報を知って実家に帰り、老木となった同じ桜の下で先生を偲びました(図5)。

山川誠一先生、ありがとうございました。先生の教えを自分なりに守ったつもりです。安らかにお眠りください。