茨城にいたとき、月1回2時間、市民向けの医学入門講座を水戸で毎年開講していました。医学の歴史に始まり、人体臓器(脳・甲状腺・肺・心臓・腹部臓器・女性/男性生殖器・泌尿器・皮膚・筋肉・骨・関節)の解剖・生理・病理・臨床、および代表的な病態(がん・生活習慣病・移植・救急医療)を解説していきました。その内容を踏まえ、私自身の医学への思いをちょっぴり入れて「番外編」としてスポンサーの広報誌「常陽藝文」¶に寄稿したのが医学入門番外編の10回シリーズでした。
¶http://www.joyogeibun.or.jp/shuppan/
その「医学入門番外編」の8回目に「糖尿病」を取り上げました(2018年8月号)。リブレを使い始めて数ヶ月の経験をもとに書きました。常陽藝文の許可を得て、一部のデータを再掲します。いくつかの主題に分けて話を進めます。
1.運動で血糖はどの程度下げられるか。
リブレを付け始めてまもなく、運動で血糖*値はどの程度下げられるか、を調べました。同じメニュー、同じカロリー、同じ成分の昼食(総カロリー580kcal・炭水化物41.7g [糖質20.1g+食物繊維21.6g]・タンパク質48.5g・脂質 28.9g・食塩2.7g、図1)を2日間、同じ時刻に同じ時間で食べました。初日は食後30分から運動(20 分間のジョギング+ウォーキング、距離に換算すると2km、歩数だと約3千歩) を実践しました。2日目の食後はデスクワークを貫徹し、運動は一切しませんでした。この2日間の昼食前後の血糖*値推移を比較してみました(図2)。青は1日目の食後運動をしたとき、赤は2日目の食後血糖*です。運動によって血糖*の上昇は抑えられ、2峰性を示しました。デスクワークに徹した場合は食後1 – 2時間は高血糖*が持続し、 3時間を過ぎると逆に低血糖*の傾向となりました。
食後の運動は、食後高血糖*を抑えると同時に、そのあとの低血糖*も抑える作用があるということです。
*リブレの「血糖値」は血液中のブドウ糖濃度ではなく、留置針が刺さっている血管外の間質液におけるブドウ糖濃度である。本稿で血糖*と表記しているのがリブレによる間質液ブドウ糖濃度を意味する。次項で述べるように、リブレの血糖*値は血中のブドウ糖濃度(真の「血糖値」)とほぼ時間差なく推移を表していると筆者は考えている。
2.リブレの血糖*値は実際の血中血糖値よりもどのくらい遅れて反応するか。
食後、血液中の血糖値が上昇すると、どの位遅れてリブレの値が上がるか、が問題になります。一般的には15分程度遅れると理解されています。
前述の運動による血糖*降下、あるいは手術などの緊張場面における血糖*上昇を体験すると、15分の遅れは絶対にない、と確信しました。運動を始めるとまもなくリブレの血糖*値は下がり、手術室に入るとまもなく上がるからです。15分よりも短いという印象は持てますが、詳細なデータがありません。
当時、正確に血糖値を30秒ごとに測る方法が手元にありませんでした。そこで思いついたのは、リブレの血糖*値は、緊張や運動負荷で上昇するという現象を利用すれば良いということでした。
安静臥床から急に起き上がると、しばらくしてリブレの血糖*値は上昇します。
どの程度のタイムラグがあるかを調べてみました。たった2回しか調べませんでしたが、起き上がり動作によってどちらも2分半後にリブレ血糖*値の上昇を認めました(図3)。起き上がり動作で交感神経の興奮が起こり、これが肝臓・筋肉のグリコーゲンを分解してグルコースを血中に放出すると考えられます。一方、血中濃度(血糖)の上昇が、起き上がり動作ののちどの位の時間を経て起こるのかのデータはありません。血中濃度上昇までのタイムラグが仮に1分だとすれば、間質液のブドウ糖上昇は血中よりも1分半の遅れとなります。仮に血中濃度の上昇に2分かかれば、間質液の上昇は血中よりも0.5分しか遅れない、ということになります。
正確なデータを得るには、血中濃度の経時的なデータとリブレのデータとを比較すればよいだろうと思います。
いずれにせよ、血中も間質液もほとんど時間差がないというのが私の結論です。
3.リブレは製品ごとの差が大きいが、どの程度の差があるのか。
リブレは血糖*の推移をみるのに非常に優れていることは間違いありません。一方では、その絶対値には疑問を持たざるを得ませんでした。平均血糖*値から割り出される推定HbA1c値が実際と余りにもかけ離れていたからです。概して、というよりはほぼ確実に、リブレの血糖*値のほうが実際の血糖値よりもかなり低いということがHbA1cの実測値から推測されました。また2つのリブレを同時に使用してみると(センサーもリーダーも2組用意し同時使用、図4)、血糖*のカーブ形態は同じであっても絶対値が違いすぎていました。図4に示すように平均血糖*値は110 vs 140mg/dLと34mg/dLもの差がありました。
しかも、1つのセンサーの感度は、使用期限2週間の間に徐々に落ちていくように感じました。なぜなら、2週間目になると低血糖アラームが頻出するからです。
リブレの血糖*値は実際の血糖値に比べどの程度低下しているのか、センサーごとに測定値の差はどの程度あるのか、経時的な感度低下はどの程度あるのか、が次の興味の対象になりました。
こうした疑問に応えるデータを過去1年間にわたり集めました。結果は次回お示しします。
(リブレは全て個人購入です。)