今日1月23日は「一無・二少・三多の日」です。日本記念日協会の認定記念日となっています。生活習慣が疾病予防にいかに大切かを示すキャンペーンです。
これに関し、建設未来通信*というローカルな業界紙に昨年、シリーズでコラムを書きました。許可を頂きましたので少しアレンジして再掲させていただきます。
*https://www.kensetsumirai.co.jp/aboutus、https://c31d9aef-8fe7-49f6-a3e3-c51862dc2b55.filesusr.com/ugd/c52428_27c76382cf0e42ec9eb5fb852e908cfd.pdf
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「一無・二少・三多の日」の「一無」はタバコを吸わないことです。
タバコは最大の健康加害者です。タバコは、がんや心筋梗塞だけでなく、認知症や喘息にも関係し、若い人では生殖能力を低下させると報告されています。自分だけでなく、他人にも害を及ぼします。子どもへの健康被害が無視できません。たばこは絶対にやめなければなりません。
男性の喫煙率が50%にも達する職場が今でもあります。「緊張する仕事なので息抜きについ・・・」という人が大半です。禁煙できないのは、ニコチン依存症になっているからです。ニコチンは脳細胞のニコチン受容体に結合して快楽を引き起こします。ところがニコチンが切れると逆にイライラして、つい吸ってしまうのです。悪循環が生じ、たばこなしでは生活ができなくなります。
依存症の治療は、たばこでも、お酒でも、薬物でも、容易ではありません。自力で禁煙に成功する人もいますが、多くは自分の意志だけでは無理です。その場合、ぜひ禁煙外来を受診してください。禁煙指導の専門スタッフがチームで診てくれます。保険が使えます。残念ながら全ての医療施設に禁煙外来があるわけではありません。当院にもありません。ネットで「禁煙外来」と打ってみてください。近くに必ず見つかると思います。
「一無・二少・三多の日」の「二少」は「少食」と「少酒」です。
まず「少食」。
少食の勧めは、栄養失調になれと言っているのではありません。腹八分目が目安です。なぜでしょうか。
厚生労働省は昨年度「食事摂取基準2020年版」を発表しました。体を動かすことの多い30–40歳代の1日必要エネルギーの目安は、男性2700kcal・女性2050kcalです。ハンバーグ定食・酢豚定食・鳥から揚げ定食はいずれも約700kcalです。カロリーからすれば女性はこの3食で十分、男性だとあと1つ食べるだけで足ります。デザートをとるなら何かを残さなければなりません。お酒が入ればさらに減らさなければいけません。カロリー過剰は体重を増やし、メタボに繋がります。
塩分にも気をつけましょう。「2020年版」によれば1日の塩分量は男性7.5g、女性6.5gと、どちらも今までより0.5g減りました。高血圧などの「塩害」への対策が強化されたのです。すでに高血圧や腎臓病のある人は1日6g未満です。先ほどのハンバーグ定食・酢豚定食・鶏から揚げ定食の3食合計の塩分量は10g以上です。カロリーはよいけど塩分はダメということになります。外食に頼らず、手作りの食事の良さを見直しましょう。
次は「少酒」です。
「酒は百薬の長」と言われますが、飲み過ぎはいけません。適度な酒量は、日本酒なら1合、ワインなら2杯まで、ビールだと大瓶1本(633ml)、焼酎だと半分に薄めるお湯割り(水割り)コップ1杯までです。肝臓や膵臓の悪い人は一滴もダメです。アルコール依存症の人もダメです。本当は一滴ぐらい構わないのですが、これを許すとキリがなくなります。
健康な人でもお酒は一滴もダメだという研究がないわけではありません。しかし、ほとんどの研究は少量の飲酒に問題はないと報告しています。例えば、日本人対象の疫学研究によると、がんの発生率は、日本酒換算1日1合であれば飲まない人と同じです。毎日2合を超えると、がん発生率は量に比例して増えます。ただし、こうしたデータは主に男性についてです。女性は飲む人が少なかったためデータが少ないのです。しかし、女性のほうが男性よりもアルコールの影響が強く出るとされます。また、男女ともに体質によってかなり異なります。さらに、喫煙が加わると酒の悪影響は顕著に出ますので注意が必要です。
「一無・二少・三多の日」の三多は「多動」・「多休」・「多接」です。
「三多」の1つ目は「多動」。
運動と寿命についてこういう意見もあるでしょう。
「体の調子が良ければ運動できる。病気だと運動できない。だから運動のおかげで命が延びるのではなく、運動できる元気さがあるから病気の人より長生きするだけなのだ。」
しかし、運動は長寿につながるのです。厚生労働省の「健康日本21」(第2次)に1つの資料があります。2007年のわが国における「危険因子に関連する死亡数」が載っています。危険因子のナンバーワンは喫煙、次いで高血圧、そして3番目に運動不足です。運動不足によって生じる病態は心筋梗塞などの循環器疾患が約80%、がんが約18%、糖尿病が約2%です。運動すれば心筋梗塞、がん、糖尿病のリスクが下がり、寿命が延びることを意味しています。
別の資料を示します。国立がん研究センターの多目的コホート研究では、40歳〜60歳未満の全国の住民を20~30年にわたって追跡調査した結果を示しています。これによると、運動をよくしていた人の死亡率は、していなかった人に比べ、男0.73倍・女0.61倍、つまり30~40%死亡率が下がっていました。がん死亡も20〜30%下げます。騙されたと思って運動をしてみませんか。
「運動が寿命を延ばすのは分かったけど、忙しくて運動できないよ。」
確かに、疲れていると無理ですね。でも、工夫しませんか。
例えば出勤のとき、もし電車利用なら、駅のエスカレーターは使わず階段を歩くことです。「疲れているのに階段だなんて・・・」と言わずに「寿命が1分延びる」と思って登り降りしましょう。
会社の中ではこんな工夫はどうですか。
もしあなたが上司だった場合、部下を呼び付けるのではなく、自分で相手のところに歩いて出向くのです。エレベーターは使いません。そしてお願いをしてみてください。部下はびっくりします。まさに一石二鳥です。もしあなたが部下であれば、すぐ上司のところに駆けつけましょう。運動になると同時に、評価が高まります。
買い物は歩きましょう。帰路、重い袋を持って歩けば、消費カロリーは増えます。車のときは、できるだけ遠くに駐車しましょう。
主婦のかたは、掃除がかなりの運動になります。掃除機を取り出す、かがんで電源コードを差し込む、こまめに角を掃除する。それなりの運動です。
忘れ物をして引き返すとき「しまった」と思わず「しめた!運動が増える!」と考えましょう。
「三多」の2つ目は「多休」。
「心と体を休める」のが必要だと誰もが分かっています。しかし生活や仕事で休むというのは難しいものです。私自身も十分に休めているとは言えません。
大切なのは「心と体が休めないとどうなるか」を知ることだと思います。
心と体が休めない状態として今回はストレス、次回は睡眠不足を扱います。
ストレスは多くの病気に関係します。うつ病、高血圧、糖尿病、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、気管支喘息、消化性潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎、慢性蕁麻疹などが有名です。
病気の原因や悪化は、ストレスによってホルモンや免疫のバランスが崩れるためです。
国立がん研究センターの多目的コホート研究によると、ストレスはがんにかかる割合も少し増やします。がんにかかっていないときのアンケートでストレスの感じ方が「常に低い」、「中くらい」、「常に高い」の3群で比べると、5年後のがん罹患率は「常に低い」を1とした場合、「中くらい」も1、「常に高い」は1.11と1割高まっていました。
2015年から50人以上の職場ではストレスチェックが義務化されています。お互いの理解でストレス軽減に努めませんか。
「多休」の意味としてストレス以外に睡眠時間の問題と睡眠薬の使い方について述べます。
睡眠不足はうつ病・認知症・脳梗塞などの精神神経疾患、高血圧症・狭心症・心筋梗塞などの循環器疾患、糖尿病・脂質異常症などの代謝疾患のリスクを上げます。一方、睡眠時間と死亡率をみた研究では、1日7時間の睡眠の死亡率が最低で、それより短くても長くても死亡率は高まるというのです。もちろん、同じ時間であっても良質の睡眠をとることが大切です。次の注意が必要です。①昼間は多動を心がける、②就寝・起床時間を一定にする、③寝る前に食べない、④寝る前に飲酒をしない、④寝る前・寝ながらのスマホはしない、⑤完全な暗闇にする。
不眠症の人は睡眠薬に頼らず、まず5つの注意を守ってください。それでも眠れないときはやむを得ません。睡眠薬にはベンゾジアゼピン系(ベ系)とそれ以外(非ベ系・メラトニン系)とがあります。ベ系は強いのですが依存・乱用・転倒等の問題があります。初めて使う場合は3カ月をめどとしてください。非ベ系・メラトニン系は効果が弱めですが副作用は少なめです。医師とよく相談してください。
「三多」の3つ目は「多接」です。
まずいことに今、新型コロナが蔓延しています。この感染症を避ける最も効果的な方法は3密(密集・密接・密閉)を避けることです。今回の「多接」は「密接」と同義です。健康の秘訣の最後として「多接」を勧めようとしたら、新型コロナのために勧められなくなりました。今は「3密回避」が優先されます。新型コロナがあとどのくらい続くかわかりません。しかし、いずれ終息します。その暁には、「多接」の重要性をぜひ思い起こしてください。
「多接」とは、多くの人・物・事に接することを意味します。仕事や趣味でやりがいを見つけ、家族との団らんや人との交流で日々を楽しく過ごすことが心身によい刺激を与えます。生きる活力となります。 例えば笑いは、糖尿病やメタボ、がんの予防や延命にまで関係します。「多接」の反対は「孤独」です。「孤独」は疾病と深く関わります。とくに認知症との関わりが強いとされます。多くの人・物・事と関わればボケないということです。
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今年の1月23日は新型コロナの蔓延で特別なものとなりました。しかし、「一無・二少・三多」は新型コロナの時代だからこそ必要だという思いがあります。ぜひ工夫をして「一無・二少・三多」を実行していただきたいと思います。私もそれなりに工夫をして挑んでいます。