前任地でのことです。
金曜日でした。通常なら午前中外来、午後は会議や雑務に当てる日でした。しかし、その日はある特別な手術を入れました。
消化器外科の手術日は月・火・木です。1ヶ月先まで手術予定が埋まっています。緊急ではないものの比較的急ぐ手術は金曜日の他の診療科の枠を使わせていただくことが時々ありました。
3月11日もそうでした。麻酔科と交渉した結果、午前11時入室となりました。午前の外来人数を絞り、残りは手術の後に回しました。
手術は、とくべつに細かな剥離を要求されるものでした。正常解剖と異なる珍しい変異の存在が予め分かっていたからです。炎症が強く、1mm違えば許せない損傷を引き起こす例でした。したがって自分が術者になりました。
手術が終了したのは午後1時20分。疲れと安堵の中で終わりました。簡単に昼食を済ませ、外来を始めました。
1時間後、突如、地震が襲って来ました。
振り返ってみると、手術の開始が午後になっていたらどうなったでしょうか。
あの剥離の最中に巨大地震が襲ってきたらどうなったでしょうか。
午前11時入室という巡り合わせに幸運を感じました。
東日本大震災の思い出は皆さんそれぞれお持ちだと思います。
自分の体験は、このブログでもほんの一部を書かせていただきました(2019.7.29、2019.9.24、2019.9.27)。
あの時、原発事故が重なり、途方に暮れていました。問題は次々おきました。途方に暮れている場合ではありません。怒号や叫び声が飛び交いました。災害対応に追われながらも常に思っていたのは、「いつかは春が来る」でした。のちに復興ソングとして歌われるようになった「花は咲く」と同じ思いでした。もう一つ感じたのは、災害時・緊急事態にあっては「他人を責めない」ということでした。最善を尽くしさえすれば良い、他人を責めるな、というものでした。
この2つが私の得た教訓です。
今、新型コロナウイルスで暗澹たる思いに捉われることが多いと思います。
他人を責めずに待ちませんか。いつかは春が来ますから。