肺という漢字の画数は本来9画ではなく8画だとされます。
月(にくづき)の右の旁(つくり)は、ナベブタの市(いち・シ、5画)ではなく、縦棒1本の「ふつ・ハイ」(4画)です。「ふつ・ハイ」は草木が茂り揺れる様、双葉が左右に開く様、布を広げる様を表すとされます。柿(かき)に似た杮(こけら)という漢字の旁も「ふつ・ハイ」です。
「肺」は戦後に教育漢字となり、小学校第6学年で学ぶ漢字となりました。その際、旁は4画ではなく5画となりました。その経緯は不明ですが、第2学年で習う市(いち・シ)との繋がりを残すためだったのかもしれません。8画の肺は旧字と呼ばれるようになりました。
戦後生まれの私は「肺」を9画で書いてきました。医師となってからも紙カルテには9画で書いていました。電子カルテになってから手書きで「肺」を書くことはなくなりました。
3年前、当院に勤めてから、再び手書きで肺の文字を書くようになりました。死亡診断書を書くときです。肺炎や肺がんが死因となることが少なくありません。そのかたの最期に相応しいように、心を込めて9画で書いてきました。
肺の語源を調べたあと、8画を手書きで書いてみました。ナベブタの「点」がないぶん、スムーズに書けます。
この漢字を作った古代の先人への思いが湧き、肺という臓器への敬愛の念も生まれてきます。