N95マスクのウイルス除染対策

昨日、「ウイルス干し」のことを書きました。
洗濯物や身体が毎日洗えるのと異なり、日常品の除染はなかなか厄介です。そこで考えたのが「3日ローテート方式」。新型コロナウイルスは物の上で最長72時間生きる、という学説からの除染方法です。すなわち、スーツ、革靴、白衣を3セット(白衣は洗濯用を含め4セット)用意して、日替わりで3日に1回使うというものです。虫干しならぬ「ウイルス干し」です。
冷笑のマトになるのを覚悟で書きました。

ところが、です。
厚労省がこの「ウイルス干し」の考え方を容認していたのです。
4月10日付で「N95マスクの例外的取り扱いについて」という事務連絡を都道府県等の衛生主管部(局)に通達していました(下図)。

N95マスクは従来、結核のような空気感染症の予防に必須の防護具でした。新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、このマスクの需要が急激に高まっています。結核病棟を有する病院では普通に存在するマスクでしたが、一般の病院にはあまり置かれていませんでした。そこに新型コロナウイルス感染症が蔓延しました。N95マスクは当然、不足します。患者が次々押し寄せます。さあどうする!? 現場の切実な問題です。
そこで厚労省はN95マスクの再使用(継続使用)を「例外的に」認めたのです。その根拠となったのがアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の報告*です。天下のCDCが権威づけてくれたのです。ちょっとした驚きです。ただし、医療防具が不足する緊急事態での特別対応ということになっています。
*https://www.cdc.gov/niosh/topics/hcwcontrols/recommendedguidanceextuse.html

厚労省によれば、N95マスクの再使用(継続使用)の方法は2つあります。1つは過酸化水素水プラズマ滅菌器を用いた再利用法で、従来の滅菌の考え方からして理にかなっています。もう1つが私の言う「ウイルス干し」です。具体的にはこうです。1人5枚のN95マスクを持ちます。マスクには名前を書いておきます。これを5日のサイクルで毎日取り替えるのです。残り4つのマスクは「通気性のよいきれいなバッグに保管」ということになっています。ただし、「目に見えて汚れた場合や損傷した場合は廃棄すること」となっています。

私のスーツ・革靴・白衣は3日交代です。N95マスクは直接口に触れるので余裕を持たせて5日交代にしたのだと思います。
でも違和感があります。気密性の高いN95マスクです。外から付着する新型コロナウイルスは5日のうちに死滅するにしても、マスク内面につく唾液や汗の問題は残ります。細菌が増殖します。たぶん「臭く」なります。せめてティッシュをマスク内に入れてティッシュだけ使い捨てにしたらどうか、と思います。あるいは、私の「魔除けネクタイ」のように、日干しを勧めてみたらどうか、と思ってしまいます。

なお、今回の通達で厚労省はN95マスクを使用する環境として「エアロゾルが発生するような手技を行う時(気管内吸引、気管内挿管、下気道検体採取等)」のみを挙げています。それ以外では「サージカルマスク等を適切に使用すること」としています。つまり、鼻腔や口腔からの検体採取ではN95マスクでなくてもよい、新型コロナ患者の病室での通常診察・看護ではN95マスクでなくてもよい、ということを意味しています。

しかし、CDCの報告はだいぶ異なるニュアンスで書かれています。N95マスクの再使用は医療防具が不足する緊急事態での特別対応という点では同じです。5枚のN95マスク配布と日替わり使用も書いてありました。しかし、このような再使用マスクは「十分なエビデンスがない現状では、エアロゾルを発生する手技のもとでは使ってはならない」とあります(However, given the uncertainties on the impact of decontamination on respirator performance, these FFRs should not be worn by HCPs when performing or present for an aerosol-generating procedure)。また、新型コロナウイルス以外の病原体の問題にも触れています。

スーツ・革靴・白衣の3日交代論はよしとしても、N95マスクの5日交代論や、新型コロナウイルス患者の通常診療・看護でのN95マスク不要論、には慎重であるべきではないでしょうか。